バイオディーゼル(BDF)反応とアルカリ触媒量の紹介(基礎編)です!!

バイオディーゼル(BDF)反応、製造、分析、或いはプロセス関連トピックス記事は、既に殆どカバーしたつもりです
 
同じ様な内容を何度も繰り返すのも嫌いなもので、従って、バイオディーゼル(BDF)反応関連の記事は少なくなっています。
 
今回は、過去にも類似の紹介記事を書いた気もしますが、通常のアルカリ触媒を使った場合の触媒投入量についての紹介記事です。
 
BDF製造の基礎編ですが、極めて重要です
 
今更、そんなの常識、100%解っていると言われるBDF製造のベテランの方、今回の記事は無視し、トバシテください。
 
BDF反応触媒は、いろいろ使われていますが、現在でも、殆どはアルカリ触媒が使用されています。
 
余談ですが、特に、日本では、BDF原料は、殆ど廃食用(てんぷら)油(WVO,UCO)です、それも良質油(低FFA含有量)が殆どです。
 
ここで言う良質油か、否かの指標を示すものが酸価値です。云わば、油が熱的、時間的、或いは水分雰囲気などの影響を受けてどれだけ劣化(遊離脂肪酸グリセリンに分解)したのかを示す指標値が酸価値です。
 
酸価値は,通常2~5程度の範囲に収まっています。
この酸価の数値の約50%(2分の1)が分解した遊離脂肪酸(FFA)濃度(重量%)を示しています。 
この場合は、多少の石鹸分が副生しますが、アルカリ触媒によりエステル交換反応処理だけを行っています。次に、酸化値が6以上10~15程度までは、前処理として硫酸によるエステル反応処理、或いは吸着剤処理等を行い、遊離脂肪酸(FFA)濃度をまず低下させ(低酸価値へ)、その後、通常のアルカリ触媒を使いエステル交換反応を行います。
 
更に、酸価値が高く、15~190+であれば、本Blog記事でも度々紹介している固定化酵素触媒法などによりエステル反応+エステル交換反応を並行して行うしか、方法はありません。
これらに属する油脂は、廃水トラップ油(Brown Grease)、酸性油(Acid Oil)、パーム油蒸留残渣油(PFAD),バイオマス・パルプ油(Toll Oil)等です。
これらの取得価格は、PFADを除くと、ほぼ無料ですので、BDF生産者にとって採算上、極めて有利です。
 
さて本題ですが、アルカリ触媒として、通常使われている触媒は、苛性カリ(KOH)、或いは苛性ソーダ(NaOH)です。どちらを使っても反応性は大差ありません。但し、他の差はあります。①理論投入量差、②購入価格差、③グリセリンの性質(固まり安さ)やグリセリン沈降速度差、堆肥混合補助剤(苛性カリのカリ肥料成分、グリセリン等)として使えるか、否か。。。等です。
 
今回は、投入触媒量の求め方,計算法が本題です。
    ここに注目しましょう!!
 
苛性カリを使われている方の方が、日本では多いのでは?と思います。 
理由は苛性ソーダ触媒の購入価格は安価ですが、副生石鹸、グリセリン溶液が固まり易く、しばしば配管類を固化、詰まらせるからです
従って、保存時の副生グリセリンは固まった状態ですので、保存法に多少の工夫が必要です。再液化」は70度程度以上の加熱が必要です。この点では、苛性カリは液状を保ち有利です。逆に、ここさえ注意すれば、苛性ソーダの方が優れています。
 
最も私は、主に苛性ソーダを使っていました(過去、現状は自らは製造してません)。価格差と固化し易いグリセリンを使って固体グリセリン石鹸を作っていたからでした。
 
では、まず
1)苛性カリをアルカリ触媒として使う場合です。
話を簡単にする為に、バッチサイズ=原料油=100Lとします(以下、総て同様)。皆様はどの程度苛性カリを投入していますか?? 700g?1kg? 或いは1.3Kg? 何れも正解かもしれませんし、間違いかもしれません。
 
理由は、触媒投入量は、使用する油の酸価値、或いは反応装置特性(攪拌、形状など)で異なってくるからです。一般には、下記の式となります。
 
A=(B+C) x D                         (1)
 
ここで、
A:任意のバッチ量(原料油量)の苛性カリ投入量(g)、この例は、一応100L
B:酸価値=0(遊離脂肪酸濃度=0、酸価値=0、新油の場合など)の苛性カリ基準値(g/L)、標準B=7.5程度、最小値B=5.0程度です。
C:酸価値補正項(=酸価値)(g/L)、遊離脂肪酸を中和、鹸化するアルカリ量。
この分は触媒とならず、消費される。 酸価値=2なら、C=2
D:バッチ油量(L)、バッチ量D=100L
 
ここで、問題となるのは、Bの値です。
装置の攪拌や反応装置の構造などにより、変わりますが、標準値は7~8程度です。最も少ない場合は5程度の場合もあります。
余り無条件で小さな値だと反応時間が遅かったり、最悪いくら時間を掛けても高転化率が得られないこともあり得ます(未反応成分が残る)。
 
どちらかといえば、多い方が安全ですが、その分、石鹸分副生が多くなります。理由は水分が多く副生=石鹸が多く副生となります。
 
従って、BDF製造に熟練するほどに、反応状況を即座に、簡単に測定できる
   簡易転化率キット( http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/12221789.html )
などで転化率を確認しつつ、また反応停止時間を考え、実験的に触媒量を低下させるのが理想です。
反応装置条件が良ければ、或いは以下に述べる2段反応法を有効に使えば、B=5程度まで低下できます。
 
最初は1段反応法での値です。
ここでは、標準的なB=7.5 とします。最初のスタート値はこの程度数値がお勧めです。
 
A=(7.5+2)x100=950g/100Lバッチ             (2)
 
となります。最低値と思われるB=5.0が使えれば、A=700g/100L-バッチとなります
 
2)次は、苛性ソーダ(100%)の場合です。
こちらは簡単です。差製ソーダと苛性カリとの分子量比1.4(=56.1・40.0)で割ればOKです。
KOH/MW=56.1,NaOH/MW=40.0
 
上記の標準投入量の場合は、
 
A=950/1.4=679g/100L-バッチ                (3)
最低値の場合A=700/1.4=500g/100Lとなります
 
正しくは、苛性カリの通常純度95~96%程度、苛性ソーダは純度ほぼ100%ですので、この補正が必要かもしれませんが、通常は無視できます。
もし、補正する場合は、補正項=1/0.95=1.05で割った数値になります。(3)項は647gです。
 
3)苛性カリ、苛性ソーダ混合使用の場合です。
簡単な応用問題ですので、想像できるとは思いますが、。。
一応下記に例題計算をしておきます。苛性ソーダと苛性カリの混合比は、エステル交換反応だけを考えた場合は任意ですが、配管の詰まり、特に冬場などの配管詰まりを考え合わせると、50% 対 50%程度までなら安全です。
この場合、上記の(2)式、及び(3)式の結果値から、
苛性カリのA=950x0.5=475g                   (4)
及び
苛性ソーダのA=679x0.5=339g                 (5)
 
を投入すれば良いことになります。合計量は814gとなります。
 
同様に、苛性カリ=60%、苛性ソーダ=40%なら、
苛性カリ(A)=950x0.6=570g,苛性ソーダ(A)=679x(1-0.6)=272g
B値が7.5以外の場合も、計算法は類似です。ご自分の装置に合ったB値を実験的に確認ください。
 
4)2段反応の場合で、かつ苛性カリ100%の場合
同様に応用問題です。1段目は酸価値C=2として、標準的には1段反応で、1段/2段反応時に於ける転化率割合(E)=80%:20%転化率を1段で狙い、2段反応で80%を100%近くまでの転化率を狙う場合、下記となります。
 
因みに、この値(E)=65~90%程度です。やはり、上記の簡易転化率キットで、転化率を確認しつつ、ご自分の装置に合った値を実験的に決めてください。但し、余り神経質になら無くても、殆ど問題ありません。念のため。
 
1段反応の苛性カリ量(A)=950x0.8=760g/100L         (6)
 
2段反応では、既に1段反応で酸価値はほぼ0~0.5程度となっていますので、(1)式のC=0.5とします。
この場合、2段反応時の石鹸副生で、触媒が0.5g/L消滅し、逆に石鹸分が副生すると言う前提となります。
 
この結果、A=(7.5+0.5)x100x(1.0-0.8)=160g/L    (7)
 
となります。この合計は920gですから、1段反応の950gに比べて、同じ油、同じ装置特性でも、アルカリ触媒の使用量は30g減少し、更に反応転化率や反応時間は減少します。
同時に、石鹸分副生も減少し、またメタノール使用量減、グリセリン分離時間減等も、併せて達成できます。
理由は1段反応終了時にグリセリンを除去することで、エステル交換反応がBDF側にシフトするからです(これが2段反応を行う最大の理由です)
 
尚、1段反応時と2段反応時とで、別々に上記の様なメトキシド溶液を作るのはどうも面倒。。。と思われる方向けの簡便法は、苛性カリ、或いは苛性ソーダ、又は混合触媒を使ったメトキシド溶液全体量を準備し、これを按分値(E)で分けて、夫々投入することも可能です。
 
 
5)2段反応で、かつ苛性ソーダ100%の場合
こちらも、同様に簡単に計算できます。(6)、(7)式の値を1.4で割るだけです。従って、
1段反応時のA=760/1.4=543g                    (8)
2段反応時のA=160/1.4 =114g                    (9)
 
6)2段反応で、かつ苛性カリ/苛性ソーダを混合して使う場合
同様です。仮に50%:50%なら、(3)、(4)式の値を1.4で割り、1段反応と2段反応での転化率割合(E)で案按分すれば、求められます。計算は各自でトライしてみてください。
 
。。。と言うことで、今回は、アルカリ触媒量について、苛性カリ100%、苛性ソーダ100%、これらを混合した場合、及び1段反応法と2段反応法での各触媒量について、紹介しました。
 
今回はBDF反応の基礎編でしたが、極めて重要です。
これをマスターすれば、アルカリ触媒の投入量について、悩みは解消です!!
 
では、また。。。
Joe.H
 
追伸)
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