バイオディーゼル(BDF)の激化反応(Intensified-Reaction)法って何???

最近のバイオディーゼル(BDF)反応の海外文献を見ていると、やたらと英語のIntensificationとか、Intensified Reactor(Reaction)と言う言葉が眼につきます。
 
そこで今回は、Intensified Reaction(Reactor)について紹介します。
 
英語の直訳の意味は、激化、強調、増加、増幅などと言う意味です。
仮に日本語で激化反応(Intensified Reaction)と呼ぶことにします。
 
これに対するのが通常反応(方式)であり、英語では通常反応(Conventional Reaction)と言う単語で区別して使われています。通常の攪拌方式の1時間~数時間と言うバッチ反応(器)、或いは反応槽を連結した連続反応(器)方式を通常反応(器)と呼ぶ。触媒の種類(酸、アルカリ、。。。)や利用方式(均一、不均一触媒、。。。)とは関係しない。。。と言っています。
 
では激化・バイオディーゼル・反応(Intensified Biodiesel Rection)、或いは、同反応器(Reactor)とは 何でしょう??
  
激化反応の共通要件は、下記の総て、或いはその一部項目が該当する様です。
 
(極)短時間の反応である。通常の1時間から数時間ではなく、秒単位~数分程度で化学平衡に達する。
微視的な完全混合(近似)が実現している(Macro-Mixingでなく、Micro-Perfect-Mixing)。
(極)小の反応器である。通常方式の10分の1~100分の1以下と極小容量である。
複数工程を一工程で処理する方式で、例、反応と分離を同時に行うなど。
・(超)高速反応の結果、モノ・グリセリド、石鹼など副生成が少ない反応方式もある。
(超)高転化率反応が実現できる(99.9+%)。
 
等の特徴の様です。
 
では、これら要件に該当する激化反応方式は、具体的にどの様なものでしょうか??
 
今回は、通常のアルカリ法(均一触媒)均一反応を前提に考えて見ましょう
 
現状では、9種類程度は少なくとも報告されている様です。
幾つかは既に紹介済の方式です。
 
1)Static-Mixerを使う(Micro-Mixing)反応方式
 連続方式( http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/10064073.html )でも、(新)バッチ方式( http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/10541340.html )でも、他のBlog記事でも、廉価なStatic-Mixer(微小混合反応器)を使いMicro-Mixing効果が実現できる様にすれば、超短時間、超高転化率が得られます。
反応Mixer内の滞留時間は、二段反応の各段とも通常0.2~0.8秒程度の設計です
この結果、モノグリセリド(MG)などの副生も抑えられる可能性大です。
 
(以下、後日追加)
現実に、平成12年10月の後日Blogに於いて、この手法の発展型のMSR(Milli-Seconds Reactor)方式のBDF反応装置を使い、0.3秒と言う超高速・超短時間で反応が完結すると共に、使用メタノールも16%程度と極めて少なくすることが出来ています。装置価格も超安価で、小型装置で日産5000Lから10000Lの生産能力も持ち合わせています。
以上が実証されています。
 (追加、ここまで)
 
2)反応蒸留塔を使う方式
反応蒸留法(Reactive Distillation)法は、以前紹介しました(http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/10140742.html )ので、詳細説明はそちらを参照下さい。
特徴は、反応と(グリセリン)分離を同時進行で塔内処理を行う方式です。
 
3)ローター・ポンプの強力なせん断力(とオリフィス板)を使うCavitation Reactor方式
酵素法を紹介した折に、Cavitator法(  http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/11029725.html )も紹介したので省略します。尚、Hydro Dynamics社の製品が有名で、ShockWave Power Reactorと呼んでいます。http://hydrodynamics.com/s/cc_images/cache_1171192304.jpg?t=1258577429
予断ですが、米国で冬季時にB100であれ、ブレンド油(B10、B20など)であれ、低温時のフィルター詰まりが大問題となっています。
冬季の詰まりの原因は、乾式・湿式の方式の差と云々とか、転化率云々と言う議論をされているのを見たことがありますが、主原因は別です。
原因の一つは、モノグリセリド(MG)、特に飽和MG量が問題となっていて、ASTM規格に取り込む議論が進行しています。
飽和MGの融点は70~80℃で、フィルターに分離固化したものは、再度なかなか溶けません。
Cavitation方式では、MGの副生量を抑えられる(10分の1以下)と言うことで、米国など大規模BDF製造業者は導入を急いでいる様です。
MG副生量の制御は、可逆反応速度差と、滞留時間の因果関係でほぼ説明がつきます。
他にも関連の興味有る情報も多々有りですが、価格帯や規模から、全くの想定外だと思いますので、詳しい説明はしません。
 
4)Micro-Mixingによる(超)微細バブル生成・破裂エネルギーを利用する超音波方
超音波(Ultrasonic Wave)は、身近のところでは、めがねレンズ洗浄器などにも使用されていますが、BDF反応を含め反応用には、高出力型が使われています。
特に有名なのは、独Hielscher社の製品ですが、下記の様な構成となります。
3)のCavitation方式と同じ効果を狙い、実プラントでも使用されている方式です。違いは、方式だけで、効果は殆ど同じです。但し、1台2万ドル(200万弱)以上もしますし、超高転化率は2段反応と言うことで、2台は必用となり、規模が大きくないと無理ですので、省略します。
3)の余談で述べたモノグリセリドを常温で溶かしてしまい(分子レベルで高温・励起状態)、フィルター詰まりを防ぐ効果もある(再度、MGを追加投入しても)と言う興味ある報告もありますが、皆さんには関係なさそうなので、省略します。
 
 
5)極微小な分子間の局部加熱を行う電磁波方
電子レンジ用電磁波は、FM放送などに利用されている周波数帯(2.4GHz)を通常使っています。この周波数は、丁度水分子の振動周波数で、電磁波を当てると分子が共振し、発熱する理屈です。
BDF反応用の最適な電磁波は、油脂とメタノール分子との共振振動数に合わせた2帯域の電磁波を使えば理想です。効率は落ちるものの、実状は電子レンジと同じ周波数帯を使用しています。最近、研究レベルでは注目されていますが、並列運転以外は、スケールアップは不可能の様です。大型での実現は無理かな?と思います。
 
6)オリフィス付反応管を振動させる振動混合方式
Oscillatory Flow Mixing方式で、仮に振動混合方式としました。
流量計などに用いる多数オリフィスプレートを長い反応管(ステンレス管)に入れて、前後を特殊ピストン・ポンプで振動させ、擬似プラグ・フローを実現し、反応促進をさせると言う方式です。特許も取得されています。
写真や詳しい内容は、大学のホームページ( http://www.ceb.cam.ac.uk/pages/oscillatory-flow-mixing.html )を参照下さい。物質移動がネック(律速)ならBDF反応以外の化学反応でも応用可能です。
オリフィスを通過する度に流路が狭まり少量液体が(Micro-Mixing)混合され、かつ前後に振動を与える結果、擬似プラグ・フローが実現できる様です。丁度、2枚のオリフィスの間に、小さな完全反応器(10mL程度?)が出来て、これが何十、何百も同じ構成で連結し、全反応器を構成しています。
振動周波数を変えることにより、混合状態も調整可能だと言っています。現在は、販売もしていますが、BDF製造の実プラント例は不明です。
 
7)反応・グリセリン分離を連続的に行う接触分離用遠心分離機方式
この方式はContactor Separatorと言っていて、直訳では接触分離機ですが、実際は高速回転の特殊遠心分離機です。
特許製品で、BDF以外の反応も応用可能で、概略図を添付します。
充分加熱された反応溶液(WVO,メトキシド)は、高速回転している特殊遠心分離機内に入ると、回転による混合によりエステル交換反応が起き、同時にグリセリンも副生しますが、反応促進阻害物グリセリンは、即連続的に分離される構造となっています。この結果、更にエステル交換反応は進展すると言う仕組みです。反応と分離の2工程を一つの機械内で連続処理する例です。
エステル交換反応を促進するには、グリセリンを、出きれば連続的に、少なくと2回以上(2段反応法)分離しないと高転化率のBDF製品は得られません( http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/10994752.html )
8)メンブレン膜を使い反応・分離を同時に行うメンブレン方式
メンブレイン(Membrane)は、通常は半透膜、或いは分子篩と呼ばれる分離技術の一分野で,高分子材料でできています。
膜状だと圧力などに弱いので、シリカ、酸化アルミナなどの多孔質円筒管内表面に、この材料を付着させた材料を使い、BDF、メトキシド混合溶液をを流すと、円筒内を進行するに従い、反応は進展するのですが、同時に表面の極性(親水性)と膜の細孔径(1ミクロン前後)により、円筒の外側に、メタノールグリセリンが連続に分離します。グリセリンは分離を行い、メタノールは再利用されます。一方、円筒内に、未反応油とBDFが残るが、希望の転化率が得られるまで、リサイクルすると言う仕組みです。
研究報告は沢山ありますが、一例です( http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/ie060555o )。
使用メンブレインの特性により、また、分離物質は異なります。
上記添付文献の例では、未反応油は分離されず、メンブレイン筒内部に残りリサイクルされる一方、BDF,グリセリンメタノールが分離される例です。分離側に未反応油の混入は無いそうです、分離膜の特徴は分子の大きさと分子膜の細孔サイズにより、シャープな分離ができることが最大の特徴です。細孔の大きさを変えることにより、どの分子まで膜を通過させるのか、否かの分離設計ができます。
但し、全体で見ると、この方式も反応とグルセリン分離を連続式に行い、高転化率を得る方式で、特殊遠心分離機と同じ目的ですが、遠心分離か、膜分離かの差だけで、エステル交換反応の促進効果は同じ理論です。
メタノール(メトキシド)がリサイクルされるので、全体としては、メタノール(対油の理論メタノール量3モル近くまで)と触媒(10分の1以下)の使用量を極限まで、低下させることができると言う報告もあります。
新油の他、廃油でも処理可能ですが、廃油中の固形物の除去処理が充分でないと細孔が詰まる可能性大だと思います。
 
9)Micro-Channel 方式
波型熱交換機を利用したMicro-Channel(微細流路)反応方式の例を既に紹介しました(http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/10958422.html )。Micro-Channel専用の反応器も種々ありますが、ここでは省略します。特徴は、微小空間でのMicro-Mixing効果による高速反応とプラグフロー流れの実現による反応促進だと思います。
 
などの種々の方式が提案され、実用化されつつあります。
 
通常方式にしがみついていては、 進歩も改善もありません。
どれかの激化反応法にトライされたから、如何でしょうか??
 
では、また。。。。
Joe.H