バイオディーゼル(BDF)の水分溶解度をご存知でしょうか??

バイオディーゼル(BDF)中に水分は、どれだけ溶解するのでしょうか??
つまり水溶解度(Water Solubility)について、
今回は少し考えて見たいと思います。
 
バイオディーゼル(BDF)製品の水分規格値はご存知だと思いますが??
米国規格(ASTM)、ヨーロッパ規格(EN)値、伴に水分規格上限値は、500PPM(wt/wt)、つまり0.05%です。
 
BDF生産に於ける水分の除去は、極めて重要です。
原料の段階でも、通常は新油を使わずに、廃食油(WVO)を原料とする場合が多い訳ですので、水分は多く含まれています。反応開始前の原料の前処理=水分処理と言っても過言ではありません。
 
例え、充分な水分処理を実行したとしても、原料油を放置しておくと、空気中の水分を、すぐ吸収してしまいます
 
製品のBDFについても、このことは言えます。
と言うか、原料油に比べて、BDFと類似のエステル構造(対、グリセリン)をしていますが、その低分子エステル構造(対、メタノール)故に
BDFは、より親水性が強く、遥かに水分を吸収する傾向があります。
 
BDFを生産者は当然のこと、使っているだけの方も、BDF中に水分が存在すると、どの様な問題が生じるか、ご存知だと思います。
 
主なものだけでも、
①酸化安定性を損なう(特に、長期保存の場合)
②エンジントラブル(インジェクターの詰りなど)
③エンジン内部の亜鉛、クローム等の酸化、鉄分の腐食
④BDFの変質(酸化反応による分解、変質、石鹸の生成など)
 
前置きが長くなりましたが、
 
この様な理由から、BDF中の水分の溶解度を理解して、
更に、適正に管理することは、反応転化率の管理と同様に、BDFの品質管理上も極めて重要です。では、
 
BDF中に水分は、どの程度溶解するかご存知でしょうか??
 
BDF製造のベテランでも、定量的に知っている方は、少ないのではないでしょうか??
 
この様に重要であるにも拘らず、BDF中の水分溶解度のデータは余り存在しないのが、実状です。
 
下記に文献値が有りますので、それを紹介します(一部加工)。
6種類の商用バイオディーゼル(BDF)とオレイン酸(菜種や大豆油の主要脂肪酸エステルのデータです。
温度の変化と溶解度(Wt.%)との関係が表示されています。
 
商用(販売)BDFの中身、組成は不明ですが、文献の出所がヨーロッパですので、多分菜種系、或いは、少なくとも菜種が主だと思います。
理由はオレイン酸エステルのデータに近いデータだからです(菜種油の60%はオレイン酸)。
 
温度は、通常の℃表示ではなく、絶対温度の度K(ケルビン)で表示されていますが、度Cへの変換は、273.15(約273.2)を差し引けば、度Cに変換できます。
因みに、298.2度K=25度Cとなり、常温状態近辺の温度に対応しています。
 
 Experimental Results for the Water Solubility in Commercial Biodiesels(by Oliveira,2008)
T/K         biodiesel A    biodiesel B     biodiesel C  biodiesel D  biodiesel E   biodiesel F methyl oleate
       
288.2        0.0225           0.0220     0.0236      0.0217     0.0223         0.0209         0.0209

293.2        0.0248           0.024      0.026       0.024       0.026          0.023            0.0207

298.2        0.0270           0.0262     0.0282          0.026        0.0274       0.025       0.0223
 
303.2        0.030            0.029      0.032             0.028        0.029         0.0276          0.0246

308.2        0.034            0.0322      0.0330          0.0323       0.0325        0.0307          0.274

313.2        0.038            0.038      0.0356          0.035         0.036          0.033           0.0304

318.2        0.043            0.042       0.039            0.039          0.041         0.037           0.0353

1)この摂氏25度Cに於ける溶解度の最低は、2.5%(BDF-F)であり、最大値は2.82%(BDF-C)となっています(同様に、20度Cでは,最低2.3%、最大2.6%)。
6サンプルの平均の溶解度は2.66%となります。つまり、常温(夏や梅雨時)の25℃では、2.6~2.7%、27、000PPMも溶けうると言う驚くべき数値です。
実に、水分規格値500PPM(0.05%)の52~54倍と言う数値です。
 
2)では、水分量と温度との関係はどうでしょうか?
当然、温度が上昇すれば、溶解度も上昇しています。他の物質と同様の傾向を示しています。
上記の表から、平均値ベースで計算すると、
温度が1度C上昇すると、0.06%溶解度が増す(15~45℃の範囲での平均値)
計算になります。
 
BDFの液温X度Cの溶解度Y(Wt、%)は 直線の相関近似式だと次式となります。
 
   Y=1.317+0.06X                 (1)
 
より正確な2次形式だと、次式になります。
 
  Y=1.887+0.00937X+0.000844X2   (2)
    尚、X2はXの2乗を意味しています。
   但し、適用限界は、15< X < 45、最大でも -5<X <70 程度  (3)
 
この簡便な(1)式では、真夏の気温35度C、BDFの液温が30度Cと仮定すると、その時の推定(飽和)水分量は3.12%となります。一方、より正確な(2)式だと、2.93度Cとなります。
冬季の0度Cでは、2式によれば、1.89%と計算されます。
温度変化により、水分の溶解量もかなり変化することが分かります。
 
但し、上記の溶解度は、温度が上昇すれば、限りなく溶解度も上昇する形式になっていますが、高温になれば、水分の蒸発が顕著になり、逆に減少してきます。
多分、これらの式の適用上限温度は、60~70度C程度までだと思います。 
逆に、温度低下の場合はどうでしょうか?
同様に、最終的には、水分は氷になり固化します。
固化するのは、BDFも同じですから、BDFの固化温度にも影響しますが、最低でも、マイナス(-)5度C程度が適用下限だと思います。
勿論、BDF中では、0度Cでは、水分は固化しません。
 
 
3)尚、この文献値は、これまでの私の常識(2~3%)とほぼ一致していましたが、
皆さんの常識はどうでしょうか??
不安でしたら、ご自分のBDFの水分を計測して見るのも、一つの方法です。
水分の分析法は、以前にBlogで紹介済みです。
 
4)但し、この水分の溶解度は、
水分が最大どこまで溶解するのか??
と言うデータですので、
わざわざ水と強制的に接触させた状態、雰囲気下にBDFを置いた状態値ですので、通常は有りません。
空気が乾燥しているか、湿っているか、或いはその時の空気の温度やBDFの液温がどの程度かにも寄りますが、
BDFの水分濃度は、通常は溶解度の10分の1程度で2000~3000PPM(0.2~0.3Wt.%程度です。
これでも、、規格値の5~6倍ですが。。。。
従って、夏場や梅雨時には、例え、乾燥処理で水分を、一時は規格値の500PPM以下に出来たとしても、
放置しておけば、すぐに規格値オーバーとなります。
ご注意ください。
 
5)BDFの親水性の為、軽油(親油性に比べると、遥かに水分を吸収し易いと言えます。
 
今回は、バイオディーゼルの溶解水分量について、考えて見ました。
 
では、また。。。。
 
Joe.H
 
 追伸)
1) 10月30日に、BDF,副生グリセリン中に、反応に使うメタノールやアルカリ触媒(KOH)がどの程度溶けているかの割合を紹介しています。最も身近で、判っていない分野だと思います。
 
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