バイオディーゼル(BDF)の動粘度は、製法などにより、更に低下できるのでしょうか?

今回は、バイオディーゼル(BDF)の動粘度(Kinematic Viscosity)の話題です。
 
BDFは、石油の軽油燃料の動粘度と同じに出来るとか、出来ない?
とかの話題が、某Blogにありました。
特に冬季用3号軽油と同じとか、更に、超える動粘度のBDFは製造可能??
とかで。。。或いは、
転化率が完璧までに高められれば、軽油の動粘度に近づく、更に超えられないか?
等の趣旨疑問の様でした。。。
 
今回は、これらの疑問に対するコメントを紹介します。
 
粘度には、一般にはややこしいのですが、動粘度(cSt:センチストークス=mm2/s)や、(絶対)粘度Pa·s:パスカル・秒、P:ポアズ)等が使われています。
動粘度は、粘度を密度で割れば、得られます。
 
但し、燃料の動粘度は単純に低ければ良いとか、悪いとかとそう簡単ではありません。規格の範囲(程度)内となっているいることが重要です。
この規格の燃料を前提にディーゼル・エンジン(ピストン、燃料噴霧ポンプなど)は設計されているからです。
一般には、ピストンの磨耗トラブルなどを考えると、(動)粘度は、下限以下より、上限以上の方が、どちらかと言えば、好ましい様です。
 
日本の動粘度の規格(30℃、単位:mm2/s)では、軽油の種類によって異なります(海外の規格の基準温度は40℃)。温度が10度低下(上昇)すると動粘度は20~30%(+)も増加(低下)します。
 
軽油1号(2.7)、2号(2.5)、3号(2.0)、特3号(1.7)以上
 
と言う事で、下限だけで、上限は有りません。
但し、動粘度は、軽油炭化水素では、他の規格値(蒸留温度、セタン価、曇り点など)を満たそうとすると、動粘度値は自然に低下し、上げることは不可能ですので、規格値を設定する必要ないと言うことだと思います。軽油のASTMは1.9~4.1、EN規格は2.0~4.5です。
 
余談ですが、一部の流動点降下剤に溶剤として含まれているトルエンの動粘度=0.57ですので、トルエンを混入すればするほど、動粘度(、セタン価も)は極端に低下してしまいます。類似のベンゼン、キシレン、シクロヘキサン等の溶剤も同様で、低動粘度剤です。石油化学利用が主ですが、燃料としての利用は、ガソリンの高オクタン価剤として主成分となります。マイナス要因だけで、プラス要因のない軽油燃料にブレンドする精製業者はいません。
 
特に、冬季特性の曇り点(CP),及び規格にはない目詰リ点(CFPP)を満たそうとすると、いやでも、動粘度は低下します。
特に、北海道などの冬季用軽油の3号、特3号軽油などは、固化防止のために、より低分子量の灯油のブレンド割合を増やしますので、動粘度はより低下してしまいます。
 
では、BDFの動粘度の具体的な規格値はどうなっているのでしょうか?
 
米国ASTM規格(40℃)では、1.9(下限)~6.0(上限)となっていますし、EU規格(EN)は同様に3.5~5.0(40℃)となっています。
 
結論としては、エステル反応、或いは、エステル交換反応を前提とした天然油脂(廃油を含む)から製造したBDFの動粘度は石油の軽油と同じか、或いは、それ以下の動粘度までは低下できません。
 
以下に、その理由を簡単に説明したいと思います。
 
まずBDFは、各種脂肪酸の混合物ですので、その成分割合によって、動粘度は自動的に決まります。
 
では、その脂肪酸メチルエステル(FAME)の成分ごとの動粘度の数値を見てみましょう。海外の文献( http://www.biodiesel.org/resources/reportsdatabase/reports/gen/20050218_GEN-359.pdf )よりの引用によるものです。
単位はmm2/s@40℃です。カッコ内は参考までに、その脂肪酸に対応する油脂(TG)の動粘度です。CXX:Y のXXは炭素数を、Yは2重結合の数です。
C10:0 1.72(-)
C12:0 2.43(-)
C14:0  3.30(-)
C16:0  4.38(-)
C18:0  5.85(-)
C18:1  4.51(32.94)
C18:2  3.65(24.91)
C18:3  3.14(17..29)
C18:1(OH) 15.44(-)
 
上記のテーブルから解るように
動粘度値は、飽和FAMEの炭素数に比例し上昇し、不飽和結合数の増加に伴い低下します。
尚、最後のC18:1(OH)は、リシノレイン酸でオレイイン酸(C18:1)に水酸基が1個付加したものです。以前に本Blogで紹介したCastor-Oil(ひまし油)には、90%程度含まれています。高動粘度ですが、冬季特性は超一流です( http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/8685514.html )
 
同じ脂肪酸のみ(3個)から構成されている未反応油脂(TG)の動粘度値は、その脂肪酸FAMEに比べて数倍~10倍も粘度が高いえます。
飽和油脂や、飽和・不飽和混在油脂の動粘度値は見当たらないのですが、同様の傾向値だと思います。
 
従って、仮にC10:0が100%の油脂でメタノールを使った100%BDFでも、その動粘度値は1.72だと言えます。
C10:0成分は、天然の油脂には極微量含まれているだけですので、現実には、実現不可能です。
従って、BDFの動粘度の理論的最低限度値は1.72であり、如何なるBDFもこの値以上となります。通常のBDFの動粘度は3~5程度の様です。
 
因みに、添付は省略してありますが、他のアルコール(エタノールIPA,ブタノール)を用いたBDF(FAEE,FAIE,FABE)も製造できますが、何れも動粘度値は、その脂肪酸メタノールベースのFAME値より、高くなります。
低温特性はこれらのアルコール製のBDFの方が、優れているのですが、粘度は高くなってしまいます。同様に、異性化、オキシ化(酸素を付加)などをした場合も、同様の傾向です。
 
天然の油脂で、100%C10:0の油脂は天然には存在しませんので、下限値は実現不可能です。
 
では、代表的な油脂を使った動粘度を如何なる値でしょうか?
正しくは、実測が必要ですが、概略推定値は、油脂の組成表から、上記の各脂肪酸メチルエステルの動粘度から計算できます。
興味があれば、各自で計算されたら良いと思います。
 
実測例では、菜種油の動粘度34のBDF(Canola)は=4.63~4.75程度、同(Rapeseed)=4.4~5.7、大豆(Soy)4.08~4.55等の報告もあります。油脂(TG)の動粘度は30~50程度と言われています。
 
菜種(Rapeseed)の動粘度は、40℃で34のものを、100℃に加熱すると、7.8へと低下するそうです。油(SVO)の状態でも、100℃一寸に加熱すれば、BDFの動粘度と同じくらまで低下する様です。
 
未反応のTG油脂残があれば、当然、動粘度は上昇します。
仮に、全てオレイン酸(C18:1)の油脂をBDF反応を行ったとします。
転化率が100%BDFなら、動粘度は計算上=4.51となりますが、(低)転化率95%(未反応油5%)の場合は、=5.93となります。規格値の上限を超えてしまいます。また、転化率ゼロの油脂100%の状態(SVO)では、32.94ですので、。。。
この意味でも、転化率を極限まで高めることは、動粘度をある程度まで減少させるため(よりサラサラ油にする)には効果があり、必要不可欠です。
 
でも、他の要因は、使用アルコールの種類と油脂の脂肪酸構成が決まれば、一意的に決まってしまう様です。つまり下限値は決まると言うことになります。
従って、BDFの動粘度低下は、反応条件を幾ら努力し、工夫しても、未反応油の減少分を除けば、不可能となります。
 
いわんや、軽油規格の下限値までは、どの様な現存する(発見されている)天然の油脂を使っても、動粘度値を下げることは無理だと言えます。
 
化学的に、合成反応を利用してC10:0が100%の油脂、或いは、それらの不飽和脂肪酸油脂、さらには、炭素数8のC8:0などの油脂を使えば、可能となりますが。。。。
 
尚、基準温度40℃の動粘度が規格値で指定されている訳ですが、(極)低温下では、動粘度も大幅に増大します。
海外の情報では、ASTM、ENの動粘度規格値の上限を大幅に超えた(Castor Oilなどから製造した)バイオディーゼルでも、意外にエンジン詰まりなど問題を起こさないのは、最近の(超)高圧のコモンレール式噴射ポンプの存在が理由かもしれません。
1600~2000気圧近くまで加圧されることによりBDFの液温は、コモンレール内で上昇し、噴射される時には高温⇒低動粘度?となっているかも知れません。逆に、コモンレール内の高圧下、BDF液温は更に下がると言う情報もあります。
或いは、高圧下で、高動粘度でも問題なく燃料噴霧が実現できているのかも知れません。低温で固形物生成が有れば、燃料フィルターが詰まりますが、高粘度でも液体ですから、燃料フィルターを通過しにくくなりますが、詰まりません。
 
問題は、うまく噴霧状況が実現できるか?
だけだと思います。
元々、どの様なBDFでも、ピストンなどの潤滑性(Castor-Oilのエステルは潤滑油としても利用)は優れているのですから、。。。。。
 
 
今回は、BDFと軽油、及び各種脂肪酸メチール・エステル(FAME)の動粘度との関係を紹介しました
 
では、また。。。。
 
Joe.H
 
追伸)
 1)上記Blog記事は、一般公開情報です。
 何かコメント、ご意見、及び質問等具体的な相談のある方は、
 下記メール・アドレス宛へ直接ご連絡下さい。
 可能な限り対応させて頂きますので。。。。
  尚、お問い合わせの前、下記を必ず参照ください。
 
付録 :BDF、米国製軽油の温度変化と動粘度変化について
大豆油BDFと米国の軽油燃料(NO1冬季用、NO2通常用)との動粘度と温度変化との関係はは下記となります。下記の式を使って計算したものです。式を使えば、任意の温度の動粘度値が求められます。
 
 
米国規格の軽油と日本の軽油規格との相関は不明ですが、No1軽油は特3号、3号軽油に対応しているのではと思います。
動粘度(X;mm2/s)の推算値は、Ln(X)=A+B/(273.15+t)+C/(273.15+t)/(273.15+t)
であり、温度tは℃、推算式の係数(A,B,C)であり、273.15は絶対温度を示す。
ABC-20-1001020
Soy-BDF0.7883-163858250030.185 19.600 13.447 9.668 7.235 
No1Diesel0.1539-13624725008.557 6.058 4.484 3.446 2.735 
No2Diesel1.5029-231667220011.123 7.640 5.517 4.156 
ABC305080100120
Soy-BDF0.7883-16385825005.604 3.660 2.272 1.790 1.478 
No1Diesel0.1539-13624725002.231 1.590 1.090 0.902 0.776 
No2Diesel1.5029-23166722003.247 2.166 1.397 1.132 0.962 
 
以上