減圧蒸留法、高品質バイオディーゼル(BDF)精製法の救世主でしょうか??

今回は蒸留法の話題です。
バイオディーゼルの高品質化の要求に加え、原料の多様化、低品質化の状況下、この対応技術手法として蒸留法が注目されていますので、紹介したいと思います。
 
まず蒸留法は、現状考えられる汎用の精製技術の代表格です。
熱エネルギーを使い、物質の沸点の差を利用して、蒸発・凝縮(液化)、そして分離回収する技術で、人類にとって1000年以上の歴史のある技術・手法です。
 
蒸留酒であるウイスキー、ブランデー、ジンや焼酎も皆蒸留法で製造されています。
糖分は、酵素の働きで醗酵し、エタノールに変換されてお酒になりますが、これは醸造酒であり日本酒やワインが代表格であることは、ご存知だと思います。醗酵法だけでは、高濃度のアルコール酒(エタノール)はできません。醸造酒を蒸留法でアルコール純度を高める方法が蒸留法(回分単蒸留)です。
 
工業的利用の石油精製や石油化学では、精製・分離技術の殆どは蒸留法です。
大規模な連続蒸留塔(装置)が、何十塔も林立している姿は壮観です。因みに、最もシンプルな石油精製法では、蒸留法によって、沸点温度の差を利用し、原油(黒い液体、或いは固化物、見かけ上は、BDFのアルカリ法の副生グリセリンの様なもの)は、LPG,ナフサ(ガソリン)、ADO(軽油)、及びその他残渣に、常圧で分離されます(常圧蒸留法)。
次に、残渣は、減圧にすると物質の沸点温度が下がる性質を利用した減圧蒸留塔(装置)で、A重油、B重油、C重油アスファルトなどに分離され各種用途に利用されています。他に分解、異性化装置もありますが、。。
 
さて、話題がそれましたが、BDFの蒸留法が本題ですので、この話題に戻ります。
 
蒸留法は、前述の様に、汎用技術であり、分離したい物質の沸点温度差を利用した分離技術ですので、沸点差さえあれば、可能です。
熱エネルギーを多量に使い、分離精製手法としては、あまりスマートな方法とは言えないのですが、原則何でも分離可能です。原則と言ったのは、熱を加えて分離しようとする物質が劣化したり、分解したら元も子も無いわけで、熱的に安定している場合だけです。石油でも減圧蒸留を使うのは、常圧では、余りにも高温となり分解してしまうからで、減圧にし温度をそれ程上げなくて蒸発・分離しているわけです。
 
最近では、エコブーム、原油価格の高騰等により、BDFの需要は急上昇しています。
その為に、BDF製造用の原料確保が急務で、いまや大豆(米国)や菜種(EU)の新油は手に入りにくくなっていると同時に、価格上昇、加えて食料との競合から、使用割合は急激に減少しています。
次に廃食油(イエロー・グリース)ですが、此方も量的確保や品質のバラツキなどが問題となっています。更には、牛脂や豚、チキンなどの動物油、及び下水や食物製造工場からの廃液からの油脂分(ブラウングリース)回収、或いは、従来のアルカリ法では処理不可能なパーム油残渣などの他に、新顔のヤトーファ油、ひまし油などの非食用油も徐々に使われ始めています。いわゆる原料の多様化対応です。
 
原料の多様化対応では、特に高遊離脂肪酸(FFA)対応の固体触媒法への変換が、プロセス上の中心テーマですが、この話題は既に何回か紹介済みです。http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/12952335.html
 
更に、原料油の多様化対応では、BDF品質の悪化や規格外の製品も出回ってきている様です。
従来の殆どの大型プラントは、大豆油や菜種と言う新油対応でした。この種のプラントでそのまま、上記の一部の原料油を処理しても、従来の高品質は期待できません。
 
例えば、Dry-Process法や特定物質(SG,Mgs)の吸着特性の優れた装置を導入する方法も有効ですが、万能ではありません。
 
この様な原料油の多様化とプロセス対応の不十分さ等から、規格外のBDF製品も市場に出回っている様ですし、加えて、年々エンジンの高性能化に伴い、BDF燃料規格も厳しくなってきています。
 
新規格の追加としては、SGs(Sterol Glycosides)類とCold Soak Test が有名ですが、原料の多様化に伴い今までは殆ど考えもしなかった不純物の除去・精製も必用になってきています。
 
例えば、低品質の動物油には、100PPMもの硫黄化合物が含まれていると言われています。硫黄化合物はいろいろの分子構造のたんぱく質分などで、確立した分離法はありません。
BDFの硫黄濃度規格は10PPM以下ですが、これはそもそもBDF規格を定める時に、石油(軽油)の規格を引用したに過ぎません。今まで、BDFで硫黄規格を満たせないと言う例は、通常の植物油では、殆ど無いはずですし、誰も気にとめる人はいなかった筈です。
石油では、脱硫装置を使い軽油などの多量の硫黄分を除去精製していますが、BDFの製造プロセスでは、その技術は確立していませんし、製造規模的にも対応できないと思います。
 
そこで、この硫黄分の除去を、SGs類や各種ポリマー、酸化不純物纏めて、一括分離精製できる??
と思われる蒸留法が注目され始めていると言う次第です。
BDF業界には、まだその規模や経験から、それぞれの不純物をターゲットとし除去するだけの規模や経験もないのだと思います。
 
BDFは高温で蒸留(350℃以上)で蒸留するれば、それより重い成分とBDFは分離可能ですが、高温で長時間曝すことになり、蒸留法の難題は、BDFの高温劣化の問題に直面します。精製中にあらなた不純物を製造してしまうからです。
 
石油精製と同じように、減圧蒸留法が最近一部海外でで使われ始めています。
但し、通常の減圧蒸留では、温度は常圧蒸留に比べれば低下しますが、それでも高温(150~160℃前後)で、かつ処理時間を掛けて行えば、BDFの品質低下は顕著です。一般には120~150℃程度で、数時間処理しただけでも、BDF品質低下は激しいと言われています。
 
そこで、減圧蒸留でかつ、数秒で蒸留する装置もあります。
 
一般には、WFE(Wiped Film Evaporator),Short Pass Distillation(分子蒸留)という技術です。この技術は、海外では50年程度の歴史のある技術で今や
 
確立した技術ですが、BDF業界では、導入例はまだ少なく限定的です。http://t2.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcR0WwyXoWb2kTLPEI7LESGi5pp3EyE4zhMPzWtT5G3MHjxELouM
 http://t3.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcT67wo9qD9UuA0tZlObE0OeXQj79_xdagTtLsUEfUwC8yp6EzOI左の写真は、米国のWFE製造会社のPfaudler社の抜粋写真です。
右はWFEの本体部分、左は分子蒸留の本体部です。違いはWFEは、コンデンサー(蒸気凝縮器)を外部に持つか(WFE)、内部に持つかの差と真空度の差です(分子蒸留)。
BDF蒸留では、WFEの方が分離効率が良さそうです。
 
上の右側の図は、WFEと外部コンデンサーとの関係図です。
原料油は(1)から入り、薄膜状で装置の内壁を伝って落下します。この装置の内壁は外部ヒーター(4)で加熱されていると同時に減圧化(1Torr)で、瞬間的に蒸発成分は蒸発し、上部から蒸気となりコンデンサーで凝縮されて、精製BDFが得られます。更に、コンデンサーの先には真空ポンプが備わっていて、より低温で蒸発すると言う仕掛けです。蒸発しない未反応成分油脂、MGs、ポリマー他の高沸点成分は底(3)から抜き出されます。
 
現状では、BDFの精製法としては、最も汎用的で、優れた手法だと考えられていますが、日産10トンクラスでも最低でも2000万円、恐らく3~4000万円は必要です。規模の上昇により更に価格は上昇します。減圧蒸留塔の他に、高真空を実現する真空ポンプ類も高価です。
 
小型の毎時70~100L程度を連続処理する装置でも、現地価格で600~700万円はします。
加えて、BDFの不純物のうち、沸点の高い成分は分離できても、逆に低い成分の分離には、前段でフラッシュさせるか、もう1系列の装置が必要になる場合もあり、更に高価となります。加えて、充分な設計能力がないと充分な精製処理は出来ないと言われています。
 
従って、導入を躊躇している大規模製造業者も多い様です。
 
この分野で有名なBDFのエンジニアリング会社の一つは、EUオーストリア)のBDI社ですが、2003年に最初の装置を導入し、現在まで10基程度が稼動している様です。
 
彼らの報告では、先ほどの硫黄濃度100PPM程度のBDFを4.7PPM程度に下げることが出来、EN規格の10PPMを容易に達成できると言っています。
硫黄分の他に、BDFの他の規格値の向上にも役立っていると言う報告です。
下記は60%動物油脂+40%廃油原料のBDFの場合です。カッコ内はEN規格値です。
 
エステル成分(重量%)   99.5(96.5以上)
・硫黄分    (mg/Kg)    4.7(10以下)
・炭素残渣  (mg/Kg)    0.01(0.3以下)
・硫黄灰分  (重量%)    0.001(0.02以下)
・水分      (mg/Kg)    85(500以下)
・全不純物  (mg/Kg)    4(24以下)
・全グリセリン(重量%)    0.02(0.25以下)
・モノグリセリドMGs(重量%) 0.01(0.8以下)
・リン化合物 (mg/Kg)    <0.5(4.0以下)
アルカリ金属(mg/Kg)    <0.5(5.0以下)
 
廃油を使う場合、通常反応では、最も重要な規格値のMGの濃度低下や転化率(エステル成分)の向上は、困難な場合も多いわけですが、減圧蒸留法であれば、品質の熱劣化も少なく、かつ転化率の向上もできます。例え、反応段階で高転化率が達成できなくとも、蒸留と言う(魔法の)精製処理で、最終製品の見かけの転化率向上(不純物低下)が可能だと言えます。
残念ながら、DryーProcess法では、MGs類の除去は限定的です(一部イオン樹脂は可能です)。主なDry-Processの狙いは、グリセリンアルカリ金属の低下です。
 
この減圧蒸留法(WFE)により、思わぬ効果は、低温固化特性も向上すると報告されています。4~5℃の改善(固化温度低下)で、効果は限定的ですが、。。。。。但し、それ専用の吸着装置もあります(ColdClear)。
 
。。。。と言うことで、減圧蒸留装置(WFEなど)を使えば、上記の様にどの様な原料を使用しても、BDF品質の高度化、安定化は可能であり、加えて低温特性の改善や、BDFの色(無色)の透明化も達成できて、万能の様にも見えますが。。。
 
但し、設備費の高額化、高エネルギー消費、加えて充分な解析と設計能力がないと、期待した程の効果は発揮できないことも事実です。石油精製などの専門家の技術蓄積や経験の助けも必要かも知れません。
 
但し、BDF市場に於ける品質の安定化と高品質化、加えて信頼性はお金だけの問題だけでもありません。
特に、軽油とのブレンド(B5)などを目指す場合は、当然の結果です。
先方は技術も資金もあるプロ集団ですから、今までの様な狭いBDF業界では、お山のテッペンにあぐらを掛け続けられても、石油(軽油)と同じ土俵の闘いなら、BDF業界も精製・分離技術、品質の問題なら、序の口以下です。
 
BDFの原料多様化に伴う精製技術の救世主となり得る減圧蒸留(WFE)の概略を紹介しました。
製造規模と資金、それにチャレンジ精神ののある方は、是非お問い合わせください!!
 
では、また。。。。。
Joe.H
 
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