バイオディーゼルを蒸留すれば、必ず完璧なBDFが作れる!? と思っていませんか???

最近、我が国の幾つかのBDF装置メーカーは、蒸留法によるBDF製造装置を販売しています。
 
一方、BDF製造者側も、この蒸留装置に興味をもったり、良く理解しないで蒸留信仰に近い人、或は、既に導入済の製造所(者)もちらほらある様です
 
。。。と言うことで、
今回は蒸留法によるBDF製品を、自家製の簡易転化率キットでテストした報告がテーマです。
 
今回は、知り合いの蒸留法のBDF製造所を最近訪問し、そこで頂いたサンプルBDFです。
この製造所は、200Lバッチで、反応装置と減圧蒸留装置が一体化された製品(B社製)を使用されています。
 
下記の写真は、右側の2本(同じもの)が反応後のクルード(粗)BDFです。
反応、グリセリン分離後のBDFですので、メタノールや水分も混入した状態です。従って、上部液は曇っています。
 
左側の2本(同様に同じBDF)は、減圧蒸留処理後の最終製品です。
両者とも、最近出来立てのものです。
 
比較すれば、目視で判るように蒸留法のBDFは、殆ど無色で高品質BDFの様にも見えます。
 
でも、蒸留法BDFファンは、この無色透明=高転化率高品質BDF=優良BDF!!!
。。。。等と考えていないでしょうか??
 
或いは、無色透明のBDFを見せられて、蒸留装置に飛びついて購入していませんか??
 
 
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次の下記の写真は、自作の簡易転化率テスト結果(2XMode)です。
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まず、右側が祖BDFの結果です。
底に未溶解液(色の部分)が分離しています。これが未転化油(TGs、DGs、MGs、ポリマー、他)です。
上部の試薬、BDF混合液が曇っているのは、祖BDFの残留水分等ですので、転化率には無関係です。
 
本来は、この段階で、底に未転化油が分離しない様な転化率にすべきです。
残念ながら、この状態では充分な高転化率反応には至っていません。
 
理由を確認の結果、当然と云えば当然の結果でした。
反応が1段反応法が第一原因です。
 
従来から話している様に、
1段反応では、或いは不正確な2段反応法では、高転化率BDFは、理論的に無理!!
と言うことです。
 
更に、この製造所では、メタノールを通常の量を混入すると石鹸分が多量にできて、装置が運転しにくく、この結果としてメタノール投入量を通常より減らしていると言うことでした。
 
確かに、石鹸分の生成は抑えられるのですが、当然BDFの転化率が低下し、向上できません。
これらの結果、上記となった様です。
 
本来の方法は、廃油原料油の水分を減らした乾燥油状態で、定量メタノール、及び触媒を投入すれば、石鹸生成を抑えつつ、もう少し高転化率BDFが得られたと思います。
 
現状のBDFでは、よくて転化率90~92%程度だと思います。
定量分析をすれば、この数値はより正確に算出できますが。。。
 
写真左側は、この状態の祖BDFを、減圧蒸留したBDF製品のテスト結果です。
結果は、写真では、試薬も、BDFも無色透明なので、写真では判りにくいのですが、
目視で未転化成分油が底に、かなり沈殿しています
 
そこで、この蒸留BDFに色素(実は、醤油を少々)を加えたのが、最後3枚目の下記写真です。蒸留BDFは、左側の写真です。イメージ 3
 
これで境界面が分かると思います(無色透明な部分が未転化油)。
 
 
驚くべきは、蒸留後のBDF製品の方が、少し未転化油成分(非BDF)が増大しています
 
但し、正しくは右の祖BDFのバッチを蒸留したBDF製品ではなく、別バッチの祖BDFからのもですので、
正確には、蒸留により転化率が悪化したか、否かは不明です
但し、ほぼ同一条件のBDF反応=ほぼ同一転化率だと思いますが、…
 
確かめる方法は、祖BDFのテストで、常時沈殿のない状態(高転化率)を実現しておき、蒸留装置にかけ、製品の転化率を比較すれば、判るはずです。
 
蒸留後に、沈殿が出れば、蒸留時にポリマー生成の可能性が大です。これが第一の可能性です。
 
更に、第2の可能性は、祖BDFの残存メタノール(蒸留で除去)、残存グリセリン、残留アルカリ触媒が原因かもしれません。
 
BDFエステル交換反応の逆反応が、高温下、高速に反応する諸条件が蒸留操作中に起きています。
 
従って、本来は、祖BDFではなく、精製処理済BDFを蒸留すれば、逆反応=転化率低下は、少なくとも起きません。
 
何れにしてもこの装置、この操作での)蒸留操作では、BDFの転化率改善効果は、多くはなそうです。不溶ポリマーが、蒸留工程で、新たに生成した可能性も否定できません
加えて、蒸留残渣も少なくなさそうです(収率低下)。
 
この結果だけから結論を出すことは危険で、今後、更に検証が必要ですが、。。。
 
蒸留装置を持っていられる方は、蒸留の前後で転化率の改善(悪化)の有無を確認されたら、如何でしょうか???
 
少なくとも、今回のテスト結果から、下記は言えそうです。
 
1)BDFのエステル交換反応が不完全でも、蒸留法を使えば、高品質BDFが得られる??
蒸留法は、高品質の最後の砦(Last Resort)ではありません。
色素、品質改善効果がある程度あり得ます(あるかもしれません)が、100%効果ではありません。装置の良し悪しや操作法によるのかもしれません。
高価な装置と高エネルギーに見合うか、良く考えましょう!!
その前に、先ずは反応工程を完璧に行うことが先決です。
 
2)減圧蒸留をしているのに、何故未反応油が(完全に)除去できない???
化学工学や気液平衡、或いは、現在販売されている装置の構造を考えれば、原因は判ると思います。
先ず第一は、販売されているものは、減圧蒸留装置ではなく1段フラッシュ(蒸発)分離器であり、精留を目的とした通常の多段減圧蒸留装置ではありません。
 
この為、分離能力が悪く、これを高めようとすると、残留液(未反応油)残液は増えて、益々蒸留収率悪化を招きます。多段塔(充填塔)、複数フラッシュ蒸留にしない限り収率は向上しませんし、更に高エネルギーも必要となります。
 
余談ですが、粗BDFからのメタノール回収・除去も同じ理屈です。減圧、常圧に関わらず、1段フラッシュ蒸留(分離)ですので、沸点差が35℃もある水分を多量に含んだメタノールが得られるものの、高純度メタノールは得られません。前述のBDF蒸留では、沸点差は、遥かにすくなく、より分離が難しいことを意味しています。
 
本格的な多段蒸留が、別途必用です.
前者はメタノール、水分除去が主目的です。この低純度メタノールだけを、再度エステル交換反応に使えば、大量の石鹸が生成します。注意して使いましょう!
 
3)では、BDFの蒸留は意味がないのでしょうか?? 
その様なことは無いと思います。ケース・バイ・ケースです。
 
正しく設計された装置、総ての操作を正しく行えば,高品質BDFが得られる筈です
特に、廃油、未精製新油などに含まれている(かも知れない)ポリマー、硫黄・りん化合物などの高沸点成分は除去できます。
 
問題は、BDFの沸点に近い遊離脂肪酸やモノ・グリセリド(MGs)等は、販売されている様な製品では、理論上からも完全には、分離除去できません。
 
加えて、販売されているバッチ法の減圧蒸留では、BDF液が高温となり、かつ長時間曝される為に、ポリマー化の反応が起きている可能性もあります。
 これでは、除去しているのが、上記の例の様に、増加させているのか判らなくなります。
因みに、以前別の北の方のメーカー製透明な蒸留サンプルでも、テスト結果は同じでした。色だけは無色透明でした。。。転化率はダメ製品でした。
 
ヨーロッパ等では、特に廃油の場合、蒸留法で精製していますが、言葉は同じですが、全く別の手法・構造だと言うことぐらいは理解しましょう!
 
日本は残留炭素規格の為の蒸留法かもしれませんが、海外では遊離脂肪酸、硫黄・リン化合物、生成ポリマー類除去が主目的です。
 
4)残留炭素(10%)の改善効果はあるのでしょうか??
ポリマー類等の高沸点成分は、この様な装置でも比較的分離できますので、改善効果は(ある場合も、無い場合も)あると思います。
 
但し、他の方法でも可能です。
蒸留法は、気液平衡の関係に基づいた分離法ですが、他に固液平衡の関係を利用したWintering法吸着剤、溶剤の利用法などが考えられます。
但し、実験と分析結果の突合せが必要です。
こちらの方が、はるかに安価で、エネルギーも使いません。
 
5)蒸留装置は、メーカーのカタログ性能が出るの??
詳細は不明ですが、少なくとも、処理時間は多くかかっている例もある様です(今回の製品ばかりか、西日本のメーカー製も)。
 
この為に、購入される方は、処理能力の余裕のある製品を選択しないと、一部しか蒸留処理できないとか、製造量が減少する可能性もあります。
 
加えて、高温の為、保守や機器の故障も少なくない様です。保守費も併せて、考えておきましょう!!
 
今回は、蒸留法のBDFとその転化率の簡易分析結果の紹介でした。
 
蒸留法の採用も結構ですが、
闇雲に購入したり、それを100%信じるのだけは、やめましょう
 
蒸留法は、熱を強引に加えて、沸点差を利用した分離法です。
あまりエコで知的な方法ではありません。蒸留処理時間と温度が、特に重要です。
 
何か 問い合わせ,,質問があれば、。。。直接下記へメールで。
 
では、また。。。。
Joe.H
 
追伸1)
下記は、最近(本年1月31日)入手したBDFサンプルの転化率を確認したものです。
 
本サンプルは、別蒸留装置メーカー(西日本)の装置で製造した廃油製BDF(中部地域のBDF製造者)サンプルです。添付写真は、その蒸留済BDF製品を自作簡易転化率キットによる試験結果です。
 
BDF製品は、無職透明色ではなく、やはり多少色が付いていました。
品質は、写真の様に、沈殿油もなく高転化率BDFでした。
 
但し、製造直後のサンプルではない為か、全体に透明ではなく、雲っています。
恐らく、製造後、或は、製造中に何かの原因で水分が含まれたと思われます。
 
反応部は、普通の1段反応で、メタノール使用量も標準的と言うことです。
従って、祖BDF転化率は余り高くないはずですが、蒸留操作により未反応油成分が除去され、高転化率BDFが得られた!
と言う例です。
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追伸2)
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