グリセリンの沈降速度を考察しよう!!

以前、下記のBlog記事で流体力学のサワリで、レイノールズ(Re)数 を紹介しました。
 
バイオディーゼル(BDF)製造時のグリセリン分離について、今回も、流体力学の知見を応用しつつ、考えて見ようと思います。
 
反応終了時、或いは2段反応法の1段反応終了時に、グリセリン分離が必要になります。
大規模生産の場合は遠心分離機などを用いて、BDFとグリセリン液の密度差を利用して、2000~10000G(重力の2000~10000倍)程度の重力を人工的に掛けて分離しています。
但し、通常は撹拌を停止し、グリセリン重力(1G)沈降分離します。遠心分離機等に比べれば、比較にならな程、遅いののですが、エネルギーを使用しないで分離しています。
 
。。と言うことで、今回は、分離法の基礎となっているStokesの式を紹介し、式からグリセリン分離を定量的に考えて見ましょう!!
ただ感じで沈降時間が早いとか、遅いとかヤマカンで論じないで。。。。
 
但し、式の前提は、上記Re数が層流域でのみ成立する式です。
この場合、撹拌を停止した状態で、流れは止まっている訳ですから、層流域です。一方、遠心分離機内は、乱流域ですので、成立しません。
 
有名なStokesの式は、下記で表現されます。
Vs=Vfー(Dh-Dl) x G x d x d /18/Vi           (1)
但し、
Vs: 重量液(物)の沈降スピード(cm/s)、ここでは、グリセリン(液球)沈降速度
Vf: 軽量液の上昇速度(cm/s)、ここでは、BDFの上昇速度(バッチ沈降では、0)
 d:: 重量液(物)の直径(cm)
Dh: 重量液(グリセリン)の密度(g/ml)
Dl: 軽量液(BDF)の密度(g/ml)
Vi: 軽量液(BDF)の粘度(g/cm/s)
 
以前紹介した連続式反応・分離器などでは、正の値(Vf>0)ですが、バッチ静置分離では、Vf=0となります。
1式は速度の方向性を持っていて、沈降はマイナス表現となっていますが、沈降速度を正すると、グリセリン沈降速度Vsは
 
Vs=(Dh-Dl) x G x d x d /18/Vi              (2)
 
となります。
ここで、2式から解ることは、沈降速度は、グリセリンとBDFの密度差に比例し、グリセリン溶液粒(層流では、直径dの球と仮定しても、良く一致する)の2乗に比例し、BDF粘度に反比例すると言う式です。。
 
余談ですが、ある一定の容器内の溶液に、既知の密度(Dh)の金属球(d)を落下させ、一定速度で降下するスピード(Vs)、又は、距離を測ることで、溶液粘度(Vi)が測定できます。
 
では、例題を使って計算してみましょう!!
反応停止時の温度(60℃程度)として、物性値として下記のデータを使います。
Dh=1.23656
Dl =0.85788
G =980.6
Vi=0.0296
d=0.01
を計算すると、Vs=0.06969
となります。
つまり、グリセリン粒滴の大きさを0.01cm(0.1mm)とすると、沈降速度は0.06969cm/sとなります。
 
つまり、100ミクロンのグリセリン液滴球は、毎秒0.06969cmの速度で沈降する計算です。これより大きなグリセリン粒はより速く、これより小さな粒は、これ以下の沈降速度となり、沈降しにくくなっています。
 
例えば、バッチ容器のタンクの高さを70cm程度と仮定した場合、この粒径までのグリセリンの沈降時間(T)はどの程度かかるのでしょうか??
 
回答は:  T=70cm/0.06969cm/s=1004秒=16.7分   (3)
 
即ち、反応槽(器)の高さを70cmと仮定すると、
グリセリン粒100ミクロン程度以上までは、17分弱程度で沈降分離出来る計算です。
実際の経験では、もう少し時間がかかる状況ではないでしょうか?
或いは、実際に近い計算結果ではないでしょうか?? 
流体力学の基本式を使って、グリセリンの沈降速度と沈降時間を計算してみました。
この計算は、メタノールが含まれていないBDFとグリセリンが前提の沈降計算ですので、より分離沈降し易い状況と言えます。
 
 
尚、グリセリン粒径(d)が100ミクロンから、10ミクロン(d=0.001cm)と小さくなった場合はどうでしょうか??
計算上、沈降速度Vs=0.0006969cm/s と、殆ど浮遊しているだけで、沈降速度は極めて遅くなります。
同様に高さ70cmのバッチ・タンクの(BDF中にメタノールが含まれない状態での)沈降時間(T)は、次の様になります。
 
T=70cm/0.0006969cm/s=100445秒=1674分=27.9時間=1.163日
 
つまり、タンク(高さ70cm)内に1日強も静置して置いても、10ミクロンのグリセリン粒までしか、沈降分離できないことになります。
 
静置分離法では、事実、通常最低でも1日~2日程度は置いておく場合が多いと思います(分離し易い脱メタノール後の状況です)。
 
静置時間を多く取れば、当然の結果、それだけ分離は良くなります。
海外の例では、2週間~1ヶ月も静置すると言う人もいます。
更に、放置されている間に、通常は開放系タンクからメタノールが蒸発し、より沈降分離し易くなります。
 
因みに、2ミクロン(0.0002cm)までの粒滴を分離しようと思えば、
沈降速度(Vs)=0.00002788cm/s
沈降時間(T)=70cm/0.00002788秒=29.06日
となり、 メタノールが無い状態でも、沈降期間は1ヶ月弱となります。
この場合は、殆どドライ・プロセスも省略できる位、重力だけで精製処理できます。
 
2ミクロンと言うと、エマルジョンの粒の大きさの領域の大きさです。
この大きさの液粒まで沈降する訳ですから、BDF溶液は無処理でも澄んだ状況と自然になり得ます。
 
尚、 これまでの議論は、純グリセリン100%のBDF100%溶液内での沈降速度でしたが、
現実の場合は、メタノールが混じった状態です。
反応直後に、メタノールがどの程度溶けているのかは、下記で紹介しました。
 
Blogでは、(対WVOに対し6モルのメタノールでのエステル交換反応の場合、)BDF側にメタノールが4.38%(wt)が、グリセリン側には36.32%(wt)がそれぞれ解けていることを紹介しました。 
当然、メタノールの混入によりBDF、グリセリンの密度は減少し、粘度も減少する筈です。
これらを補正すれば、グリセリン粒滴径(d)と沈降速度(Vs)との関係も変わってくるはずです(遅くなる)。
 
でもオーダー(桁)が変わる程、沈降が遅くなることではないと思います。
残留メタノール、或いは石鹸分などの混入不純物濃度にもよりますが、現実の経験から多分沈降時間は1.5~3.0倍位掛かるはずです。
 
考察の時間があれば、いつか計算してみます。
 
(12月28日追加、上記計算の結果は1.753倍の沈降時間でした。
即ち、d=0.01の場合、Vs=0.03975cm/sとなり、メタノール無しの場合は上記沈降速度はVs=0.06969ですので、沈降スピードは1.753分の1となります。
高さ70cmのバッチ容器での沈降時間は、1.753倍の29.4分かかります(無メタノールの16.7分の1.753倍)。
この結果は、現実の沈降時間に近いと思います!!
逆に、メタノール回収後のグリセリン沈降速度は、メタノールが含まれている場合の1.753倍も早いと言う意味です。(1)式で計算上は、他のグリセリン粒径でも、倍率は同じです。)
 
今回、流体力学の基本式のStokesの式とグリセリンの沈降速度について、考えてみました。
 
グリセリン凝集器(Coalescer)の設計でも、基本式として使われています。凝集操作は、小さなグリセリン滴粒を急激に凝集させ、より大きな液粒径として沈降速度を早める方法(技術)です。連続方式では、沈降タンクの大きさを大幅に小さくできます。バッチでは沈降時間が早まります。尚、凝集操作(Coalescer)方式は、機械的な方法と静電気方式とがあります。
 
 
では、また。。。。
Joe.H
 
 
 追伸)
 1)上記Blog記事は、一般公開情報です。
 何かコメント、ご意見、及び質問等具体的な相談のある方は、
 下記メール・アドレス宛へ直接ご連絡下さい。
 非公開情報など内容によっては、お答えできない場合や条件付となりますが、
 可能な限り対応させて頂きますので。。。。
  尚、お問い合わせの前、下記を必ず参照ください。
 
以上