バイオディーゼル(BDF)反応の副生グリセリン分離の最新技術は??

バイオディーゼル(BDF)は、反応方式が従来のアルカリ法でも、新世代の固体触媒法でも、或いはバッチ法でも、連続法でもエステル反応やエステル交換反応を行えば、必ずグリセリン、更には水分が副生します。
新世代の固体触媒法なら、石鹸分は副生しませんが、従来法なら必ず石鹸分も副生します。
 
今回は、この副生物の分離法、特にグリセリン分離を中心とした紹介です
 
1)最も、簡単な方法は言うまでもなく重力沈殿〔沈降)法です。
 
簡単で、何も費用が掛からないのが最大の特徴ですが、問題は、処理時間が掛かる。メタノールや石鹸分が含まれた状態では、完全にグリセリンが分離できない。。。
などが課題です。
 
BDF製品中の最大のグリセリン濃度は0.24wt.%(2400PPM)(米国ASTM規格)~0.25Wt..%(EN規格)以下と決められています。
この数値は全グリセリン濃度です。
分離できるのは遊離グリセリンで、この規格値は0.02%(200PPM)以下となっています。
 
通常の沈降時間では、この規格値まで低下しません。少なくとも2000~3000PPM以上となります。
中間(2段反応の1段反応後など)の反応段階では、問題無いのですが、BDF製品のグリセリン濃度だと大いに問題となります。この為、他の方法との混在手法がとられています。例えば、補助的に脱メタノールメタノール回収)、静置分離、加温バブリング、沈降補助材。。。などです。
 
グリセリンとBDFとの界面での分離収率ロスグリセリンへのBDF混入)も、無視できません。
 
2)次は、遠心分離機法によるグリセリン分離法です。
海外大型プラントでは、過去殆どこの方法でグリセリンを分離しています(今も多くは。。)。
特に、反応の中間工程での遠心分離機の利用は有効です。
最大の特徴は、処理時間が早い、設置場所をとらないなどです。
 
例えば、大型バッチ法+重力沈降法から大型バッチ+遠心分離機法に変えれば、同一の反応器でも、最低2倍、最高は10倍程度の製造能力増が可能です。
例えば、大型1000Lバッチで、反応が1.5時間、分離が8時間なら、遠心分離法なら、その機械の能力サイズにもよりますが、処理時間は30分以内ですので、5倍弱となります。連続プロセスでも、遠心分離機の利用により、同様に分離処理の高速化が可能です。
 
では課題は何でしょうか?
一般に、遠心分離機は高価であり、BDF反応液や原料の変化に弱い(調整が必要)、保守費も高価です。
更に、反応の中間では、グリセリンを充分除去できなくても、特に問題ないのですが、最終段階では問題もあり、製品規格のレベルまでグリセリン濃度は下げにくい様です。加えて、操作可能な運転範囲も狭い様です(ほぼ一定の処理速度範囲でしか運転できない)。
この様な課題の解決には、過去何年も取り組んではいると思いますが、いまだ解決できていません。特に、製品品質規格では、単に重力の何千倍(2000~1万+倍)と言う強力な遠心力を電気エネルギーを使って実現しても、完全分離は無理な様です(500~1000PPM程度?)。所詮、BDFに溶融したグリセリンは分離不能です。従って、製品規格を満たす為には、遠心分離+Dry-Process法等が現実的な手法となっています。
 
小規模生産だと遠心分離機は価格面で、一般に使えないのですが、最近比較的安価な製品も発売されています。下記は廃油前処理での紹介でしたが、グリセリンなどの分離用でも使えます。
加えて、従来の遠心分離機だと大規模処理ということで、最低でも日産3~5万リットル程度が下限でした(日本の最大規模でも、この数分の1)。
最近の小型機種は、小型で小流量処理向きに出来ていますが、反応の中間段階のグリセリン除去しか単独使用は不向きだと思います。最終製品化段階で使うには、同様にDry-Process、或いは水洗法との組み合わせが不可欠となっています。
 
3)次に紹介するのが、最近注目され始めた新技術のコアレッサー(Coalescer)法です。
この方法は、BDF中にエマルジョン化し、微小なグリセリン粒子液滴となって浮遊し、容易には沈降しないグリセリン粒子を、コアレッサーは、高速に巨大化させます。いわゆる凝集法です。
沈降速度は、粒子計の2乗に比例して高速沈降しますので、短時間で、効率よくグリセリン、及びグリセリン中に溶けた水分、石鹸分が分離できます。
 
下記が、その様子を示したものです。
特殊な網目状の媒体中を微小なグリセリン粒が通過すると、この間の静電気の生成で、微小な粒子同士が互いに結合して、よりk大きな粒子へと成長して行きます。それに合わせて、徐々に網目を大きくすれば、液滴もより巨大化し、ある段階で流速が下がれば、急速に沈降すると言う理屈です。
 
沈降速度の理論はStokesの式が当てはまり、沈降速度の基本式です。
実例は以前下記で紹介しました。
 
 
具体的な装置例が下記です(Pall社製品)。
混合BDF液は、右側から、まずフィルター処理をし、次にコアレッサー部へ入ります。
コアレッサー本体は見かけ上はフィルターの様な形をしていて、液は内側から外側に流れます。
化学繊維で、内側から、外側になるにつれて網目が粗くなっていて、前述のコアレッサーの理論を実現します。
 
コアレッサーを出たBDF液は、分離ゾーンに入り、急速分離が行われます。
この結果、グリセリンは底部に溜まり、抜き出します。精製分離されたBDFは上部から抜き出されと言う流れです。
 
 
このコアーレッサー技術は、石油精製、石油化学工場などでは、以前から使われていた技術・手法で、特に新規性はありませんが、BDFでの適用は米国Pall社が最初で、現状は唯一だと思います。
 
注目される理由は、その特徴です。
遠心分離機の様な高エネルギーが不要で、しかし分離効率が極めて優れていて、ECO的なことです。
 
同社の説明資料では20PPMまで下げられると記述されています。価格も単純構造の鉄製容器、それも小型ですし、コアレッサーはフィルターと違い、目詰まりも無く交換の必要もありません。
単にBDF液が通過するだけですので、長期間使えて安価です。
 
勿論、固形物を含んだBDF液だと詰まりが生じて洗浄処理やカートリッジ交換も必用となりますので、最大の課題(?)は、前処理によりコアレッサーが目詰まりを起こす様な大きさの固形物を除去することの様です。このために、図の様なフィルターが最初に付けられています。
 
私もこの方式に注目して、今後グリセリン分離で使う方向で研究・検討中です。
類似の理屈で静電気高速分離法もありますが、高電圧(電流は少ない)であることからか、BDFのグリセリン分離での実用化は、極く限定的な様です。一部の海外プラントメーカーは採用中です。
 
今回は、グリセリン分離の方法、特に新しいコアレッサー技術とその製品の概略を中心に紹介しました。
 
特に、現在、検討中の新個体触媒法(  http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/12217997.html )では、
ほぼ常温反応なので、この温度レベルでも使えそうなコアレッサー技術は関心大です。
今回は、その概要を皆さんにも紹介しました。
 
では、また。。。。。。
Joe.H
 
追伸)
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