バイオディーゼル(BDF)反応の理論メタノール必要量と使用量の関係が解りますか??

今回は、何気なくバイオディーゼル(BDF)反応で使用しているアルコール、
特にメタノール使用量について紹介したいと思います。
 
オイル(油)に対する実使用量(容積比)は、20%だとか、22%とか、多くの人は言いますが、
時には、知らないのか10%とか、8%とか言う人もいますが??
 
このメタノール量は何処から決まってくるのでしょうか?? そして、理論的な最低量はいくらなのでしょうか?
 
この質問に答えられる方は、以下は不要です。
正しく答えられない方は、以下を読んで、是非理解をお願いします。
 
先ず、バイオディーゼル(BDF)を製造したいと思われている人は、先ず反応式を思い出しましょう
知らなくとも、BDF製造できなくもないのですが、知っていた方が好ましいと思います。
 
下記が反応式で、1モルの油脂と3モルのメタノールが反応して、3モルのBDFと1モルのグリセリンが生成することを意味しています。
 
ここで問題となるのは、メタノールグリセリンは単一の物質ですので、その物性である分子量(MW)や密度などは計算したり、物性表から、誰がみても同じ数値が見つかります。
 
ところが、天然の植物油、或いは動物油脂などは、取れた場所や、季節、品種、或いは製品化の過程での処理法などによって変わってきます。
更に、油脂を構成している脂肪酸の炭素数の違いや、飽和脂肪酸か、不飽和脂肪酸かの違いやその濃度割合によって物性は大きく変わってきます。
その結果として、(平均)分子量(MW)や密度が異なってきますので、これらの物性値を知る必要があります。
 
油(油脂、トリグリセリド)+3(メタノール) ⇔ 3(BDF) + (グリセリン)        (1)
 
下記のテーブルがこれらの関係を示したものです。
油脂の種類によって、理論的なメタノール最低必要量(Stoichiometric quantity;化学量論的量)がテーブルの右側に出ています。
この値は、平均分子量(Total Molecular Weight)、密度(Density)と上記(1)式、及びメタノールの分子量、密度が解れば、簡単に計算できます(下記の表のVolume MethanolをOil Volumeで割れば、OKです)。

計算法はわからなくとも、油種毎のメタノール必要量(%)だけは覚えておきましょう!!
 

Oils and fats
Total
molecular weight
Density
Density
@ 50ºC
Volume
oil (ml)
Volume
methanol (ml)
Stoich. ratio
methanol : oil %
Tallow
858.54
0.895
0.88
981.18
121.52
12.4
Lard
863.73
0.92*
0.9*
959.7*
121.52
12.7
Butter
797.64
0.91
0.89
896.73
121.52
13.6
Coconut
674.51
0.926
0.91
744.57
121.52
16.3
Palm kernel
704
0.912
0.89
789.33
121.52
15.4
Palm
847.28
0.923
0.9
938.29
121.52
13
Safflower
879.1
0.927
0.91
966.44
121.52
12.6
Peanut
885.02
0.919
0.9
984.45
121.52
12.3
Cottonseed
867.38
0.918
0.9
963.76
121.52
12.6
Maize
872.81
0.923
0.9
966.57
121.52
12.6
Olive
870.65
0.923
0.9
964.17
121.52
12.6
Sunflower
877.22
0.925
0.91
969.3
121.52
12.5
Soy
882.82
0.925
0.91
975.5
121.52
12.5
Rapeseed/Canola
959.04
0.914
0.89
1072.75
121.52
11.3
Mustard
925.43
0.916
0.9
1032.85
121.52
11.8
Cod liver oil
908.81
0.929
0.91
1000.34
121.52
12.1
Linseed
872.4
0.934
0.91
954.48
121.52
12.7
Tung
873.68
0.944
0.92
945.54
121.52
12.9
* Approximate

 
日本では、使用油脂は大豆油(Soy,12.5%)、菜種(Rapeseed/Canola,11.3%)パーム油(Palm13%)等と思いますが、例えば、ココナッツ油だと16.3%と言うことです。この様に油脂種類によって変わってきます。廃油で、油脂の種類が混ざり合い不明の場合は12.5%を使いましょう!大きな間違いはありません。
 
この数値をAとしましょう。この数値が(1)一式の油1Lに対する理論上の最低メタノール量(%)となります。これ以下では、反応は理論上からも完結しません。
言わば理想状態でのメタノール必要量(%)です。
 
従って、現実の反応では、このメタノール量(A)を適当な触媒量と伴に投入しただけでは、反応は60~70%程度(?)しか反応しません。
 
一般に、過剰のメタノールを加えて、可逆反応のBDF反応(エステル交換反応)を正側(右側)へ進めさせます。なぜ、メタノール量を増やすと反応は右側に進んで、よりBDFが多くできます。
このことは、反応速度(論)から解ります。以前反応式のところで紹介済です。
 
一般には、最低必要理論量(A)に対して、60~100%程度過剰に投入する場合が、殆どです。
私の場合は、主に大豆油ベースの廃油(WVO)なので、12.5%の52%増しの19%を使っています。モル数表現だとWVO1モルに対して、4.56モルのメタノールを使う計算になります。
時には、更に少なく18%とする場合もあります。この場合は、メタノール過剰量は44%、モル数は4.32モルとなります。
 
これが菜種油だと、4.56モルのメタノール量17.18Lとなりますので、大豆油に比べて、メタノール量が2L弱少なくても、同一の反応条件だといえます。逆に20Lを菜種油で使えば、5.31モルに相当しますので、より反応は進みやすくなります。
ですから、他の人のメタノール量を聞くときには、併せて、油種も聞いた方が、どうせ聞くなら良いと思います。
 
尚、バイオディーゼル(BDF)反応では、メタノール量(モル比)が重要な因子であることは、間違いありませんが、その他油脂の品質(脂肪酸量、水分)、アルカリ触媒(量、品質)、反応器(形状、攪拌法、攪拌方式)、反応(温度、反応方式、反応時間)などによっても、当然変わります。
 
また注意すべきは、日本のBDF反応器は密閉式ではなく(密閉でもメタノール蒸気が洩れる構造も)、開放式の場合もある様です。例えば、反応温度60度近辺で、反応時間2~3時間も掛けて、メーカーに言われるままの長時間反応を行う場合もありうると思います。
反応の進捗具合が、例えば、簡易式転化率キットなどで把握できれば良いのですが、
これらの無い場合は、
反応転化率が不安、でも転化率は上げたい⇒
漠然と反応時間を余計かける、それでよいはず!と思い込み⇒
時間と伴にメタノールは、どんどん大気蒸発(火災の危険も)⇒
反応液内でメタノール不足(モル比減少)⇒
逆反応開始(目的のBDFが、グリセリンを伴い、油脂+メタノール)が発生、或いは、
メタノール不足でBDF反応停止(未反応油脂が残る)
と言う最悪のシナリオになる可能性も有りますので、ご注意下さい。
反応時間を掛けて反応が進むか、少なくとも低下しないのは、
過剰メタノールが密閉された容器内で反応する条件だけですので。。。。
 
BDF文献などを読まれる場合は、使用油に対してメタノール使用量はXXモルとだけしか書かれていない場合も多いのですが、使用油種が書かれているはずです。
例えば、メタノール使用量6モルとか、9モルとか書かれています。
これは、大豆油(1L)なら、それぞれ250、375mLのメタノールに、菜種であれば、226、339mLに相当しています。
 
メタノールを過剰に使えば、使うほど一般には反応は早まり、転化率も向上しますが、当然、製造費もその使用量によって増加し、コスト高となります。
例えば、100Lバッチで、メタノールを22%の場合と、18%の場合との比較では、メタノール1Lの原価83円とすると、332円の差となり、1L当りの原価は3.32円の差となります。
例え、多く使ってもメタノール回収設備付の装置なら問題も少ないのですが、水洗法では、廃水となってしまいます。従って、メタノール使用量は出きる限り低下させたいものです(少なくとも、不必要な量は投入しないことです)。
 
BDFは第1にコスト、第2も3もコストと考えているBDF製造者は、まず第1にBDF反応を良く勉強(研究)することだと思います。
これなしで、メタノール使用量を闇雲に減らすと、転化率不良のBDFを製造してしまいますので、ご注意下さい。
簡易転化率キットもなし、定期的に外部へ分析依頼もしない場合は、コスト高でもメタノール使用量を25%程度使う方が、より良い高転化率BDF製品が作れます。
コストか、製品の信頼性かの選択の問題です。
 
以上ですが、これでメタノールの使用量がどうして決まるのか、少しは理解できたのではないでしょうか??
 
尚、今回はバイオディーゼル(BDF)反応のメタノール使用量について考えて見ました。
 
メタノール同様、エタノールでも、理屈は同様ですが、
エタノールを使ってまで、バイオディーゼルをつくられる方は、まだ日本ではいないと思いますので、止めておきます。
エタノール・ベースのBDF(FAEE)なら、冬季特性(CP、PP、CFPP)の改善も見られるので面白いのですが、。。多少は原料コスト高(安い変性エタノールでも可)になります。その内、トライしてみます。
 
では、また。。。。
Joe.H
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