極寒でも冬季処理が必要のない程、優れたバイオディーゼル原料油脂は無いのでしょうか??

バイオディーゼル(BDF)の主原料は、米国では大豆油、ヨーロッパでは菜種油、東南アジアはパーム油を中心に展開されていることは、ご存知だと思います。
 
これらの油脂で、冬季特性が最も優れているのは、菜種油ベースであり、最も悪いのはパーム油ベースのバイオディーゼル(BDF)です。
大豆油ベースのバイオディーゼル(BDF)は、これらの中間に位置しています。
 
但し、最優秀の菜種油ベースのBDFでも、目詰り点(CFPP)はマイナス(-)7~8℃、流動点(PP)でもマイナス(-)9℃程度の様です。
 
この程度の冬季特性では、本州の東北部や山岳地方、或いは北海道の厳寒期は、とてもBDF100%では使えません。
 
これらの冬季特性を決めるのは、飽和脂肪酸の濃度であり、主に炭素数16(パルミチン酸)と18(ステアリン酸)濃度(割合)で決定されます。
 
菜種油ベースのBDFが、大豆油ベースのそれより冬季特性(CP,CFPP,PP)が優れているのは、飽和脂肪酸濃度が少ない事が原因です。
 
紹介済冬季処理の方法では、飽和脂肪酸濃度を物理的な操作(Winterization等)により、飽和脂肪酸濃度を変えている訳です。
 
 
前置きが長くなりましたが、それでは天然の植物油で、菜種油より冬季特性の優れた植物油は、この世の中で、ないのでしょうか??
 
これが、今回紹介するテーマです!!
 
原料油のコストなどを廃食油(WVO)との比較で考え合せると、当然、(特に、日本では)商業的な生産は無理です。
それに、これまで紹介した冬季処理を行えば、例え、廃食大豆油ベースでも、充分対応できる訳ですから、現実には、この様なことまで考える必要はありませんが、。。。
 
コスト等の実現性を度外視して、冬季処理無しのバイオディ-ゼル油脂が何か存在するのか、またどの程度の温度まで使用可能か、否か等について、アイデアル(理想)状態で考えて見ようと思います。
 
完全にBDFの息抜きでしょうか?
 
答えは、実は、世の中にはあります。
数ある殆どの油脂は、菜種油までの冬季特性は無いのですが。。。。
 
第1の例は、コリアンダー油(Coriander Oil)からバイオディーゼルメタノール・アルカリ触媒下で製造した場合です。http://soniyaskitchen.com/images/coriander.jpg
 
更に、BDFの冬季特性の理想をあくまで追求するなら、どの油脂でも、エタノールなどを使えば、メタノールに比べ、更に2~5℃程度、冬季特性は良くなります(製造コスト・アップ)。
 
コリアンダー(或いは、タイ料理のせり科のパクチー)はスパイス用として知られていますが、この油を使ったバイオディーゼルの場合です。
脂肪酸の主成分はPetroseselinic Acids(68.5%)と言うことで、炭素数18の不飽和脂肪酸オレイン酸と同一の分子量ですが、2重結合の位置がオレイン酸(炭素の9番目か、6番目の差のみ)と異なっていて、物性も大きく変わっていると言うことです。
他に、リノレイン酸13wt%、オレイン酸7.6%、飽和ステアリン酸3.1%などです。
 
文献によれば(by Mosler,2010)、コリアンダーメタノール・ベースのバイオディーゼル(CSME)の目詰り点(CFPP)は-15℃、流動点(PP)は-19℃という事です。
このBDFなら、冬季、殆どの本州地域で流動点降下剤など無添加で、ほぼ問題ないと思います。
 
更に、これ以上の冬季特性の優れた油脂は無いのでしょうか??
より優れた油脂があります。
 
第2の例は、ひまし油(Castor Oil)からのメタノール・ベースのバイオディーゼル(BDF)です。
下記テーブルに示す様に、不飽和脂肪酸であるリシノール酸が87~91%、オレイン酸リノール酸リノレン酸などと、少量の飽和脂肪酸(C16,C18)が、合計1~3%程度含まれると言われています。
 
■ ヒマシ油の脂肪酸組成 
脂肪酸記号含有量%
パルミチン酸16:00.5~1.5
ステアリン酸18:00.5~1.5
オレイン酸18:12.5~4.0
リノール酸18:24.0~5.0
リノレン酸18:30.5~1.5
リシノレイン酸18:1,OH87.0~91.0
ジヒドロキシ酸18:0,(OH)20.5~1.5
 
リシノール酸は、他の植物油には含まれていない水酸基(-OH)付の不飽和脂肪酸で、簡単に言うとオレイン酸(1個の2重結合付)に、水酸基(-OH)が1つ付加した構造です。
この為、油としての特性(親油性)と、水としての特性(親水性)を併せ持っている物質です。
 
最大の特徴は、バイオディーゼルは低温時に、粘度が急上昇し、更に固化することが多いのですが、ひまし油は、低温時も流動性が高いと言う特性がある様で、エンジンオイル用として用いられています。エンジンオイルのCastrol社は有名です。
また、下剤や化粧品の添加剤、化学原料としても有名です。
 
では、このひまし油ベースのバイオディーゼル(BDF)の冬季特性はどの程度でしょうか??
 
驚くことに、文献(by Forero,2010)によれば、無処理、無添加のひまし油ベースのバイオディーゼル(BDF)の曇り点(CP)は、マイナス(ー)23℃、流動点(PP)にいたっては、マイナス(-)45℃と言うことです(Note参照)。
 
この冬季特性値だと、厳寒、極寒の北海道でも、無処理、無添加でほぼ使えるのではないでしょうか??
菜種油も、流動点降下剤メーカーの顔も真っ青ではないでしょうか!!
 
3号、特3号軽油の冬季特性と比べても、遜色ないと思います。
 
第3の例は大麻(Hemp)油から作ったバイオディーゼル(BDF)です。
上記、文献によると、米国コネチカット大の研究者が見出したそうですが、曇り点(CP)がマイナス(-)20℃となると言っています。http://t3.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcR-IBTEP6J0OMww0lSpcH8wj1k6200IuACnA-7yLxkirpzLuBw&t=1&usg=__lO_P7fHs8jgKl9ArEnTQ8YBTi1Q=
他の情報だとそんなに低い温度の曇り点(CP)ではないのですが、。。。
 
ただ、扱う物が物だけに、大麻は米国では栽培できない(日本も当然だめ?)ので、これ以上研究は出来そうもないと言うことです。
事実なら、素晴らしい低温特性だと思います。
尚、大麻油はエステ・オイルとして、日本で使われている様です。
 
第4の例は、Lesquerella fendleri(日本語は不明)と言うもので、カラシ(Mustard)の仲間で、添付の写真の様な花です。
特に、アメリカの西部(アリゾナ~テキサス)では、数えきれないほどの野生種もあるくらいで、真剣にバイオディーゼル油原料として、品種改良と実栽培が開始されつつある様です。
アリゾナに住んでいた時に、サボテンの生えている荒地の砂漠でよく見かけましたが、BDFの原料油になるとは、当時夢にも考えませんでした。
 
文献によれば、曇り点(CP)は、マイナス(-)11.6℃と言う報告です。
目詰り点(CFPP)は、ひまし油Castor Oil)製バイオディーゼル(BDF)と同様に、高粘度でありCFPPが測定できない(しにくい)と言う情報もあります。
従って、他のBDFや軽油とのブレンド油として、検討価値があると言うことです。
 
Castor Oil は、米国では輸入品ですが(産地はインドなど)、Lesquerella fendleri Oil は米国内産ということでCastor Oilと成分的にも類似で、その代替品として注目されていると言う事です。
 
 
この様に無処理、無添加で冬季特性の優れたバイオディーゼル(BDF)原料油が、他にもあるかもしれませんが、いろいろ調べましたが、現状では1位~4位の原料油です。
 
今回は、バイオディーゼル油の冬季特性の優れた油脂を紹介しました。
あくまで、特性を中心に考え、原料のコストなどは、無視してと言う前提ですので、誤解の無いようにお願いします。
商業的には、これまで紹介したWinterizationなどの方が有利なのは、言うまでもありません。
 
以下、余談ですが、。。。
バイオディーゼル(BDF)原料と言うと、我が日本は、廃食油(使用済てんぷら油)、菜種栽培、搾油、利用をし廃油をBDF原料へ、或いは投資話などでジャトロファ(学名:Jatropha curcas L.)程度です。
 
一方、海外では、どうでしょうか??
バイオマスを利用するエタノール原料の探索とそのプロセス研究、実証が弟1のテーマですが、
バイオディーゼル分野でも、確実に石油輸入依存から脱却(減)するため、ありとあらゆる動植物原料、或いは藻類、昆虫類等を利用する探索研究やプロセス研究、或いは、これらの油脂の品質、単位搾油量の改良、品種改良による単位面積収量増など。。。。を産学あげて研究しています。
 
菜種に比べて飽和脂肪酸の多い大豆油ですが、最近は大幅に飽和脂肪酸の少ない品種も開発されつつあると言われています。将来、BDF原料として菜種と同じ冬季特性の大豆が生産されるのでしょうか??
 
日本では、どうでしょうか?? 
バイオディーゼル(BDF)の研究や実践、特にベンチャー企業は有るのでしょうか??
時々、ニュースになるテーマは、やれ補助金、地方行政と廃品回収業者でBDFを製造し、公用車で利用。。。云々が殆どだと思います。民間のベンチャーなど余り聞かないのですが???
唯でさえも、石油資源のない日本ですが、これでは何時まで経っても、石油依存輸入国から脱却できないことは、確実です。
 
では、また。。。。
Joe.H
 
追伸)
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2)別の海外の文献には、曇り点(CP)=マイナス(-)13.4℃と言うデータも有りました。これでも、低温特性は優れているのですが、。。。
また、同様に、目詰り点(CFPP)は、ひまし油ベースのBDF(Castor Oil Biodiesel)は、粘度が特に高く、規格の時間内(60秒)にフィルター(45ミクロン)を通過しないので、計測できないと言う報告もあります。CFPPは、固化結晶でフィルターが目詰まりを起こすと言う前提ですが、。。。。
 
また、エステル交換反応でも、面白い現象が確認されています。主成分のリシノール酸のOH基のお陰で、親水性があり、ひまし油、メタノール(親水性)が相互に溶ける様です。
この為、均一反応系となり、反応性も増し、攪拌無しで常温でもエステル交換反応が進むと言う興味深い報告もあり、一度何時かトライして見る価値もあると思います。
また、単位面積あたりの収量も、油含量も多い、国際価格も油脂類では一番安価、降雨の少ない荒地でもOK....などBDF原料油としても、最近注目されています。また、アフリカや南米などでは、大規模プランテーション計画も進んでいます。
既に、ブラジルでは、最近バイオディ-ゼルの商業生産が開始されています。メタノールではなく、豊富なバイオ・エタノールとのエステル交換で、また高粘度を調整するために、豊富なひまわり油とのブレンド(70%)で行うとの事です。
 
以上