グリセリンの副生しない新バイオ燃料製造法が,最近注目されています!?!?

今回は、久し振りに、忘れかけていたバイオディーゼル(BDF)燃料の反応と製造法の話題です
それも、グリセリン(Glycerol)が副生しないバイオ燃料の紹介です。
海外では、注目されていますが、日本では、殆ど知っている人はいない??と思います。
 
通常、液体バイオ燃料と云えば、即,BDF(Biodiesel=FAME:脂肪酸メチルエステル)を想像すると思います。
但し、このBDFは大きな課題があり、あまり広く普及しません。
 
諸課題は云うまでもありません。
グリセリンが10% 以上副生し、その有効利用法が見いだせてないばかりか、有効な処分法すら見いだせない
② 原料油の炭化水素(+酸素)分の一部がグリセリンに残り、炭化水素エネルギー源の利用効率が悪い。
低温特性が悪く、低温の冬季は使えない。添加剤を使っても、改善は限定的である。
。。。等です。
 
この課題は、BDF=脂肪酸メチルエステル(FAME),或いはエチルエステル(FAEE)と云う定義からすると、幾ら触媒を通常の均一アルカリ触媒(KOH等)から、固体触媒、酵素触媒、イオン交換樹脂,或いは無触媒超臨界圧法。。。。。。と変えても,結果は全て同じ,課題は解決しないことは云うまでもありません。
 
このBDFの反応化学式は、下記添付の上段に示してあります。
1モルの油と3モルのメタノール(CH3OH)に、適当な触媒を加えて、完全にエステル交換反応を行い、右側に反応が進めば、3モルのBDFと1モルのグリセリン(Glycerol)が副生します。
グリセリンを沈降分離し、精製処理すれば、BDF(FAME)燃料が出来ます。
 
現実には、アルコールを過剰に投入(4.5-7.0モル)投入し、逆反応を防ぐ手段や2段法などを使いBDFの純度(転化率)を高める努力をします。
実際は、更に過剰のメタノールを回収したり、遊離脂肪酸による石鹸分の除去、水分除去等の処理も必要です。これらは、過去のBlogで説明してあります。
 
前置はこの位にして、今回のテーマは、前述のBDFの課題を全て解消できるかもしれないバイオ燃料技術の紹介記事です。
 
正しくは、BDFではありません。BDF類似のバイオ燃料、第2世代バイオディーゼル、Green-Biodiesel、或いはEco-Diesel,..等と云うバイオ燃料です。
BDFの燃料規格の燃焼性能は満たしています
但し、世界中で日本だけ,それも首都圏の残留炭素値(規格の1/10)は、恐らく満たせないと思われます。
 
今から5年程前ですが、当方の初期の下記Blog記事でも一度紹介しています。
この化学式は、下記の2番目に示します。
油1モルに対し酢酸メチル(Methyl acetate)を3モル(実際は過剰)加えてエステル交換反応すれば、3モルのBDF(FAME)と1モルのTriacetinが出来ます。
同様に、酢酸エチルを使えば、BDF(エチルエステルのFAEE)が出来ることになります。
 
このTriacetinは、グリセリンの様に、分離沈降しません。変わってBDFと完全に混合した単一相のバイオ燃料(Biodiesel-Like)になります。
つまり、グリセリンは副生せず、反応物100%が燃料化できて、効率的です。
また、このTriacetinの効果により、低温特性も大幅に改善しますし、エンジンの摩耗特性も改善する優れものです。
 
実は、この方法は比較的最近、海外(Spain)で公表された方法です。
正確な時期は忘れましたが、本Blogの紹介記事の2-3年前だったと思います。
尚、Rはアルキル基です。
 
イメージ 3
この反応工程の略図は、下記の上段です。
アルカリ触媒等を使えば、中和工程も必要になります。
 
イメージ 1
 
 
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その後、グリセリンの副生しない類似な方法がいろいろ公表されています。
 
上記の化学反応式の上段は、その代表例です。
酢酸メチル、或いは酢酸エチルに変えて、2モルの炭酸メチル(DMC:Dimethyl carbonate)と水(H2O)と反応すると、同様最終的に3モルのBDF(FAME)と1モルのグリセリン1-2 カーボナート(glycerol carbonate)が出来ます。
但し、この例は各1モルのメタノール(CH3OH)と炭酸ガス(CO2)が副生してします。
こちらも、BDFの課題を解決するBDF-Likeなバイオ燃料です。
 
次に、紹介するBDF-Likeなバイオ燃料は、下段の化学反応式です。
油(脂)1モル+2モルのエタノール(或いはメタノール)を、触媒の下、エステル交換反応を一部だけさせ、2モルのBDF(FAEE,或いはFAME)と1モルの脂肪酸モノグリセリド(MG)を得ると云うバイオ燃料(Eco‐Diesel)です。
 
この式は、BDFを多少理解している方は、お解りだと思いますが、。。。
モノ・グリセリド(MG)は通常のエステル交換反応の中間生成物です。
原料に油(TG)にBDF製造に使うアルコールのみであり、特別な前述の様な酢酸メチル,炭酸メチル等は不要です。
 
BDF反応は次に示す逐次反応です(正しくは、可逆反応であり、反応条件により逆反応も起きます)。
であり」
1) TG⇒DG:
1モルの油(TG)は、1モルのアルコール(メタノール、或いはエタノール)とエステル交換し、1モルのBDF(FAME,FAEE)と1モルのディ・グリセリド(DG)が生成します。
2) DG⇒MG:
次に、この1モルのDGが1モルのアルコールと反応し,1モルのMGと1モルのBDF(FAME)が出来ます。
3) MG⇒FAME+グリセリン:
更には、1モルのMGに1モルのメタノールが加われば、1モルのグリセリンと1モルのFAMEが最終的にできます。
 
つまり、2)の反応工程で反応を停止し、3)のグリセリン副生反応へ進まない様にすれば、3)の反応式の結果の様にグリセリンは生成しません。
 
従って、上記の反応式下段の反応式に示す様に、油1モルに対してアルコール(CH3OH,C2H5OH)は3モルではなく2モルを投入し、製品として,同様に3モルではなく2モルのBDF(FAME,FAEE)と1モルの脂肪酸モノグリセリド(MG)を得ると云う式になります。結果的に、グリセリンは副生しないと云う訳です。実際の生産では、アルコール過剰には投入しても、3)の反応へすすまない様に制御します。
 
触媒を選択すれば、この状態が得られますし、通常,BDFの未反応物質の悪者扱いのMGですが、BDFの中に,10%混合されたバイオ燃料が得られます。それも、バイオ燃料油の容量で油1 に対して1.1倍(+)もできます。
 
この燃料、前述のBDFの課題の内、グリセリン副生の問題を解決できるバイオ燃料ですが、BDFの冬季特性はやや悪くなりそうです(MG)。従って、冬季特性が問題になる場合は、他の油とブレンドするか、添加剤等の添加が必要になるかもしれません。。
 
従来のBDFでは、嫌われ者のMG、DGですが、MGは摩耗改善効果に加えて、廃棄物はゼロですし、上記添付のフロー略図に示す様に、安価なメタノールを使用し、バイオ燃料精製工程もフィルター操作を除けば、殆ど不要です
 
但し、問題は触媒と反応条件の選択です。
少なくとも通常のアルカリ触媒では、未反応成分(TG,DG)が残ったり、一部のMGが反応し、FAME+グリセリンへと反応が進みます。これが発生し無い様に反応制御する必要があります。
 
この反応制御には、例えば、酵素触媒,それも、トリ・グリセロールのエステル交換反応でMGを(ほぼ)完全に残す(反応しない)選択制を持つ触媒(通常、1,3位だけで、2位へのエステル交換反応を起こさない選択性を持つ触媒)が必要です。
 
ある種の酵素触媒エステル化,エステル交換化触媒)は、選択性も高く可能です。
高価な酵素以外の低価格固体触媒でも、同じ結果が得られることが、極く最近の研究報告で解って来ました。
 
尚、蛇足ですが、既に出来てしまったグリセリンの処分はどうするの???
と云う場合も,多々あると思います。
同様に、グリセリンに対して、酸触媒、酵素触媒等の下、酢酸を使い Triacetin として回収することも出来ます。
これをBDFにブレンドすれば、最初の項で説明した同じBDF+トリエスチン混合バイオ燃料が出来ます。
念の為。。。。
 
。。。。と云うことで、今回は,厄介者のグリセリンが副生しないバイオ燃料を中心に紹介しました
 
グリセリン問題に苦労されている方、一度トライされたら如何でしょうか??
当方、個人的にはBDF製造者ではないので、苦労も何も問題もないのですが。。。。
今後、検討・研究して見ようかと思っています。
 
ではまた、。。。
Joe.H
 
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