バイオディーゼル(BDF)の精製法と課題は何か??

バイオディーゼル(BDF)の製造に於いて、原料油の前処理やエステル交換反応も重要ですが、最終的に燃料油として使用されますので、最後の精製工程が重要となります。
とかく簡単に考えている方も多い様ですが??
 
そこで、今回はBDFの精製(Purification)の紹介です。
 
高品質燃料を生産する、或いは、少なくとも品質規格(ASTM,JIS,EN)を満たしたBDFを生産することは、特に第3者にBDFを販売する業者(個人を含めて)にとっては、最重要課題です。
規格を満たさないBDFを使用した結果、何かエンジントラブルでも発生すれば、信用を失うばかりでなく、BDF製造者としての存在も継続も危ぶまれる結果となります。それも可能な限り経済的に、効率的にと言う付帯条件が付きます。
 
一般的に、最も多い精製方法は、現状でも水洗法(Water Washing)による精製とその後の乾燥工程だと思います。
原料油の遊離脂肪酸(FFA)や水分量により増減する石鹼分、未分離のグリセリン分、アルカリ残留分(触媒)、残留メタノールなどは、水洗することにより、殆ど廃水中に溶けてて、BDFは精製されると言う理屈です。
 
水洗法にも、各種処理ノウハウがあります。バブリング、噴霧、加温、酸添加などを組み合せつつ、水投入、攪拌、静定、分離などを数回行う必要があります。これらの工程を正しく行えば、上記のBDF不純物は殆ど除外され精製済BDFを得ることができます。
 
一見、良さそうな水洗法ですが、幾つかの問題点や課題があります。
 
排水処理:大規模な水洗法を実施している米国などの例では、減圧下でフラッシュ(蒸発)させる一次処理に続いて、更に蒸留などの2次処理を行い水を回収、再利用する外部に廃水を放出しない完全な閉鎖系(クローズドシステム)の方法、或いは、施設内の廃水処理系に一旦は流し、廃水処理施設で処理した後、処理済水を施設外放流する方法等がある様です。
日本の実情は不明ですが、恐らく、閉鎖系の例はないと思います。多くは、施設内での排水処理後に放流だと思います。外部放流でも、下水の放流基準値以内のBOD,COD値であれば、良いのですが。。。現実の状況は不明です。小規模製造者では、多くはそのまま公用下水放流の例も、法律違反ですが少なくないと思います。或いは、中和程度で下水放流と言った場合もあると思います。
水洗法の排水処理は、キチンと行おうとすると、BDFを製造するより難しいとか、費用や処理時間も掛かる可能性もあります。特に、小規模生産の多くの場合は、。。。いずれにしても、完全な清水処理はできません。
 
処理時間:次の問題点は、しばしば指摘されることですが、BDFと処理水の分離・静定の処理時間だと思います。静定を早める為に、静電気遠心分離機などを使えば、処理時間の短縮は可能ですが、少量の生産規模では、経済的に無理です。
因みに、ある水洗法の自動化システム(BioPro-190)の例では、標準の前処理・反応(酸・アルカリ法)8時間、グリセリン分離処理15時間、水洗17時間、乾燥8時間の計48時間サイクルとなっています。
このBDF装置が、BDF反応+静電気高速グリセリン沈殿8時間、ドライプロセス精製(吸着剤、イオン交換)3時間の計11時間へと短縮化となります。
ドライプロセスにより、水洗17時間+乾燥8時間の25時間が、ドライ処理の3時間へと高速化されるか、4倍強(4.36倍)も装置能力アップが計られます。
 
つまり、この水洗法の処理が高速化できれば、BDFの生産量は、最低でも4倍程度は増産可能となります。逆に言えば、4分の1の能力の前処理・反応設備で良いことになります。
 
・エマルジョンの発生処理:特に、原料油の前処理が不充分で、遊離脂肪酸量や水分量が多いと、水洗時にエマルジョンが発生して、そのままでは、水洗法の続行が不可能になります。或いは、エマルジョン状態が軽い場合でも、BDF・廃水分離の時間が多く必用となります。
勿論、エマルジョンを解除することは可能ですが、この場合は、第3物質の添加でエマルジョンを解除し、精製を続行ができます。各種塩、酸、糖類などいろいろの添加物が用いられている様です。
この結果、エマルジョンは解除できますが、処理時間が更に長く掛かるばかりか、添加物の費用、廃水処理費・時間増ばかりでなく、BDFロスが発生し収率低下の原因となります。
 
水洗法で除去不可能な不純物類:以上述べた水洗法の問題点や課題があるものの、不純物を精製除去だけに注目すると、水洗法がベストだ!と一般に過去は言われ、かつ信じられて来ました。
 
例えば、油脂原料油の含まれているリン脂質(Phosphatides)、ステロール類(SGs)、或いは、不充分な反応工程の中間生成物のモノグリセリド(MGs)などの低温特性劣化物質は、除去不能です。
これらは、冬季特性の曇り点(CP)や目詰り点(CFPP)の温度上昇の主犯物質です。これらの除去には、専用の吸着剤やイオン交換樹脂(吸着用)で別途処理が、水洗法でも必要となります。
 
。。。。と言うことで、水洗法は2006年頃までは、大規模のBDF生産場を含め、総てで採用されていたBDFの精製法でした。特に、遊離脂肪酸の少ない新油ベース(FFA<0.5%以下)のBDF製造場では、エマルジョンの発生もないからでした。
その後、BDFの急激な製造増に伴い、原料の手当ての問題から、廃油や固形油脂類もBDF原料として使わざるを得なくなり、結果として遊離脂肪酸(FFA)増、エマルジョン発生、及び各種不純物対応で、水洗法だけに頼れなくなリました。
 
そこで、登場してきたのが、非水洗法である乾式法(Dry-Process)でした。
 
乾式法にも、いろいろ処理法がありますが、多くは吸着剤、或いはイオン交換樹脂を使う方法です。
吸着剤として、2007~9年頃注目されだした精製法は、ケイ酸マグネシウム(商品名、Magnesol、粉末)などでした。この商品は、一時唯一の大規模生産で使える乾式精製法として注目され多用されました。現状でも、このMagnesolファンは一部にありますが、Magnesol(粉末)投入・攪拌・粉末フィルター(遠心機)分離が必用ということもあり、現在では使用例は減少しています。他に、ゼオライトなども使われていましたが、BDFの精製法としては普及しませんでした。
 
変わって2008年頃から登場したのが主にセルロース材系(木質系+)吸着剤です。取り扱いが充填塔に詰めて、祖BDFを通過させるだけで良いと言うことで、注目され、現在でも使用されています。加えて、価格も手頃です。但し、課題は、石鹼分、グリセリン分の量によって、使用可能期間が大幅に変わることに加えて、完全に石鹼分を除去できないことです。
 
更に、イオン交換樹脂の登場です。
イオン交換樹脂は、純水処理が主用途ですが、イオン交換機能に加えて、吸着機能や触媒機能(例、エステル反応)などのあります。加えて、化学工業品ですので、品質性能のバラツキが少ないと言う特徴があります。
BDF精製用の専用イオン交換樹脂は海外製品で数種類ありますが、製品によっては、主に吸着剤機能型(Lewatit GF 202Wet)、イオン交換機能型(BD10Dry、PD206Dry)、吸着・イオン交換機能複合型(T-45 BD DryMacro)などがあります。国内業者の販売しているものは、最初の吸着機能型が多い様です。
或いは、前述のSGs類吸着専用イオン交換樹脂(吸着タイプ、BD19)もあります。
 
では、これら乾式法の吸着剤やイオン交換樹脂の課題な何でしょうか?
 
要複数の処理剤:何れも単一の製品だけでは、充分機能しません。セルロース系は石鹼やグリセリン等の1次処理用としては優れているが、最終2次処理には適しません。
逆に、イオン交換樹脂は、イオン交換機能、吸着機能にしても、最終の2次処理には適しているが、1次処理には適さない(イオン交換寿命の短縮、精製未処理残)と言う特性があります。
。。。。と言うことで、複数の組み合わせが必用となります。
 
尚、私は1次処理はセルロース系を、2次処理はイオン交換樹脂(複合型、及びイオン交換型)を使用しています。加えて、これらの使用寿命を長くするために、反応直後の石鹼分や残留グリセリンを含んだ祖BDFを直接は投入していません。投入時の石鹼分は400PPM程度以下です。
因みにイオン交換機能は、石鹼分を脂肪酸に変換するだけですし、BDF製品中の脂肪酸濃度の規格値は2500PPMですので、仮に石鹼分3000PPMあり、イオン交換樹脂で総て石鹼分が除去できたとしても、脂肪酸3000PPMと規格値を外れることになります。
 
取扱が面倒:例えば、イオン交換樹脂でも、Wetタイプでは、メタノール洗浄が必要です。
吸着機能洗浄も可能ですが、毎回数度のメタノール洗浄が必要となります。更に、徐々に能力は低下します。イオン交換機能の再生も可能ですが、硫酸洗浄が必要になります。
使用済のイオン交換樹脂の処分も、広い土地があれば、土壌に埋めることも可能ですが、不可能の場合は別と処分の依頼が必用になります。
セルロース系は、再生は不可能です。その度に充填剤の交換が必要となります。
投入時のホコリ発生、使用済剤の処分法も、燃焼、土壌に埋めることも可能ですが、無理なら処分を依頼することになります。
 
費用:イオン交換樹脂にしても、セルロース系吸着剤にしても、価格はそう安くはありません。
加えて、国内価格は、海外の2~5倍はしている様です。加えて、充分な使用法や再生法を知らないと、交換頻度も増えて、更に費用増となります。
できるだけ、長期に使える様な、或いは安価に購入する、更には、殆ど無料にするノウハウが不可欠です。
 
水洗法、乾式法が主流ですが、他に方法は無いのでしょうか?
例えば、蒸留法があります。利点は廃棄物が無いことで、課題や問題点は下記だと思います。
 
高温酸化:通常の蒸留法ではなく、減圧蒸留法の方が、低温と処理可能ですので、製品劣化がありません。それでも、蒸留となると高温処理となり、BDFの酸化が問題となると思います。少なくとも350℃以上の高温となります。減圧蒸留でも、180℃近くの高温だと思います。ある文献値では1000Pa(7.5Torr)の減圧で、大豆油BDFで、181℃とのデータがあります。これでも、かなりの高温ですので、減圧蒸留をするとしても、最短時間での処理(WFE)や酸化防止剤を投入後の方が良さそうです。但し、この酸化防止剤も高温では、分解しますので、考慮が必要です。
 
費用:蒸留法は技術的には確立した手法ですが、BDFの蒸留では、設備と熱エネルギー消費が大問題となりえます。
充分な熱回収を行っても、投入エネルギーが多くなることは明らかです。また、蒸留によって、色物質や未反応物(トリグリセリド)、重合物質等の高沸点物質は、沸点の差で除去可能ですが、沸点差の少ない物質の除去は不可能です。例えば、飽和脂肪酸エステルを除去して冬季特性の改善は、通常の蒸留ではできません、未反応グリセリドは、適正なリフラックスを掛ければ(更に熱エネルギーは必要)、可能だと思います。
この様な状況から、古い大型のBDF製造場では、蒸留法から乾式法へ転換しているところもある様です。
 
何れにしても、課題もありますが、BDF性製法の主力は、最新のプラントでは、殆ど100%乾式法を使っています。既存プラントでも、乾式法に転換しているところが多いようです。
 
費用に加えて、品質に対する認識が年々高まっているからです。
乾式法なら素材を組み合わせれば、高品質のBDFを精製可能だからです。
 
今回は、BDFの精製法の紹介と課題・問題点を概要を紹介しました。
 
では、また。。。。。。
Joe.H
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