続)高遊離脂肪酸(FFA)油を使用したバイオディーゼル(BDF)の製造法について!

以下は、前Blog記事(  http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/11581601.html )の続編です。
前編の後に参照下さい。
 
4)イオン交換樹脂によるエステル交換反応法:酸触媒を用いると言う点では、全く同じですが、硫酸の様な均一触媒ではなく、固体酸の不均一触媒を用いる方法です。
最近、この方法が注目を浴びています。
理由は、
・不均一触媒なので、分離工程が簡単である。原則触媒分離が不要である。
・後段のエステル交換反応のグリセリンの純度が増す。
・石鹸分、塩分(硫酸ナトリウム)の生成がなくBDFの精製が簡単となる。
。。。。などが利点と言われています。
 
最新のエステル化反応の概要は下記の最新紹介文献が良さそうです。
独化学大手Bayer社のエンジニアリング部門とDow社のBDFイオン交換樹脂販売部門の担当者によるものです。内容は一般向けですが、内容はBDFイオン交換樹脂BD20を使ったエステル化プロセスを紹介しています。
 
但し、触媒として何を使おうと、前述のエステル化反応に於ける水分の除去と化学平衡の関係は全く同じです。
 
不均一触媒の方法としては、・カチオン系のイオン交換樹脂の利用・ルイス酸の金属触媒の利用法、そして、・固体酵素( http://blogs.yahoo.co.jp/hirai476/11029725.html ) などがあります。他に、ゼオライトなどの方法も報告されています。
 
これらの方法では、エステル化反応とエステル交換反応を1段で同時に反応処理可能と言う例もありますが、化学平衡やBDF原料品質等を考えると現実はどうでしょうか??
 
FFAの濃度やその他の不純物、或いは高温反応・高圧反応条件や高濃度メタノール投入、或いは触媒再利用回数(ガム質の触媒周りへの付着等による活性低下)や再生法の有無、触媒の価格、反応の再現性などの諸問題もありそうです。エステル反応、或いは、エステル交換反応だけの単独反応でも、1段反応だけでは、高FFA濃度では、完結しないことは明白ですので。。。。
 
まずは固体触媒・不均一反応では、比較的実績のある方法は、イオン交換樹脂によるエステル化法です。
イオン交換樹脂の利用の殆どは水処理用ですが、海外の製品では、BDFのエステル化反応専用として研究開発し販売されている製品があります。エステル交換反応用(アニオン系)イオン交換樹脂では、研究報告はありますが、実用例はありません。
 
即ち、イオン交換樹脂の概要は下記を参照ください。
エステル化反応用は、イオン交換基はRをイオン交換樹脂の母体とすると、
強酸性陽イオン交換樹脂の交換基の場合は、R-SO3- (固定イオン)+ H+(対立イオン)タイプです。
最も有名で、歴史が古いエステル化BDF反応用の製品は、ROOM&HASS社(2009年にDow化学に買収され、現在はその1事業部門)のAMBERLYST BD20と言う製品が有ります。
 
同社では、従来から強酸系のイオン交換樹脂のBD15と言う汎用製品も有ります。ある研究報告(2009、by Park)によれば、FFA50%の場合、BD20の方が、特に再利用可能回数と言う点で優れている様です。イオン交換樹脂は一般に、BD15を含めて細孔構造をしていますが、BDFのエステル交換反応ではこの構造は適さない様です。生成水分が細孔内に詰まり、除去できない様です。
 
この結果として触媒機能の低下・触媒交換が頻繁に必用という報告があります。BD20はこれらの結果を踏まえて最近開発された製品で、構造的にはイオン交換樹脂とは異なる構造をしています。この製品は、特許製品で、守秘契約が必要です。尚、この製品でも、BD20の使用可能時間をより延長する為に、前処理が不可欠だと言っています。
 
前処理で、水分はもとより、金属、硫黄、リンなどの不純物の除去が必要で、BD20の使用はそう簡単では無いようです。彼らは、専用のBD19と言う製品を前処理用として販売しています。詰まり、BD19+BD20のセットでエステル交換を行い、その後はアルカリ触媒によるエステル交換を行うのがお勧めの方法です。
 
あるBDFメーカーのエステル化反応の前処理法の品質基準では、下記の品質が必用だと言う事です。
これらの品質が悪いとイオン交換樹脂の使用回数減、最終BDF製品の品質の悪化を招くと言っています。
非石鹼化物  0.1%以下(Gum成分)
Ca,Mg    10PPM以下
Na,K     10PPM以下
リン       0.1%以下
水分      0.1%(1000PPM)以下
固形物     0.1%「以下
 
他の固体触媒でも同様なのですが、劣悪な低品質油でも、OKと言っているのですが、実は劣悪でよいのはFFA濃度だけで、それ以外の品質基準はより厳しい数値となっていて、通常の油でも、これら基準を総て満たすことはかなり難しいと思います。エステル化反応以上に、前処理が重要と言うことだと思います。
 
下記は、BD20の前処理法として、BD19を使用したフロー図です。
 
AMBERSEP™ BD19 Process
 
The Ambersep™ BD19 purification media removes unwanted species
(cations, proteins, phospholipids) from the feedstock before they can affect the catalyst, process or final product quality
 
 
 
幾つかのBDFプラントのエンジニアリング会社のエステル化プロセスでは、このイオン交換樹脂を採用しています。
 
イオン交換樹脂の価格は不明ですが、エンジニアリング会社が使っているので、そう高価だとは思いません。それに、イオン交換樹脂メーカーでは、より多く樹脂を販売することが主目的ですので、他の固体触媒の様に、プロセス特許は無い様ですので、プロセル改善の余地は多そうです。
当然、このBD20でも、FFA濃度は100%までBDF化は可能と言っていますが、3段法が前提です。
 
イオン交換樹脂の長所は、以上述べた様に、・BDFやグリセリンの純度が増す為、精製工程の簡素化、グリセリンの再販価格の上昇、・収率ロスがない。。。。。などだと思いますが、
では欠点は何でしょうか?主なものは、イオン交換樹脂の再利用性と価格、・長期の運用実績がない、・遅い反応を早める手段があるか??・反応容器が大きくなる!。。。。などだと思います。不均一固体触媒(イオン交換樹脂)では、酸均一触媒の様なMicro-Mixing技術を使った反応速度の高速化ができにくいのは明らかです。
 
通常は、これらの触媒は充填塔に詰め、そこに油とメタノールを流すことになりますので、触媒の活性点までの物質移動速度が遅くなり、更には触媒の細孔内部での反応なら拡散速度も問題となります。
 
反応速度増を実現する対策は、メタノール量増、高温・高圧、より完全な水分除去、更には多量の触媒の投入(価格増、充填塔容量増)などが必用不可欠だと思われます。
 
下記は、BD20と硫酸によるエステル反応速度の比較図ですが、この表では、高FFA濃度(20%)では、イオン交換樹脂の方が、理論的には疑問ですが、より反応速度が早いと言うメーカー側の報告です(少なくとも大差ないと言うこと)
 
 
Figure 1: Reaction Profile of Heterogeneous vs Homogeneous Catalysis
 
酵素でも、最近の報告では実プラントが稼動した様です。
METHES社は、小規模ですが、北米で最初の年産5百万L(毎時600L)規模の連続プラントを昨年稼動させたと言っています。本年には2倍の能力にと言うことで、FFA濃度は20%を0.9%程度まで低下できると言っています。酵素名は説明が有りませんが、有名なデンマーク酵素研究会社のNovozymes社の酵素を使っていることは間違いありません。この分野では、ほぼ独占状態ですから、。。詳細は下記を参照ください。 (  http://www.methes.com/news-28.html 
 
他の金属酸化物などを利用する固体触媒のエステル化法の実プラントはまだ存在しないと思います。少なくとも1~2年後だと思います。研究報告や触媒特許は多数ありますが、実用化までは、多くの試練が必要だと思います。
個人的な過去の経験では、固体触媒は、一般に活性化処理や再生法が難しかったり、或いは触媒メーカーが無かったり、特殊な会社が扱ったりすることも多い、。。。。等のことから、固体触媒を使用する場合は、ユーザー側の高度な知識が不可欠の様です。活性化処理や再生法が必要なことは、イオン交換樹脂も共通ですが、。。。
 
いろいろ述べて来ましたが、では大規模連続プラントでの連続法の本命はどの方法でしょうか??
但し、以下は個人的な見解です。
 
・最も低リスクで技術蓄積が有るのは酸触媒法だと思います。Micro-Mixing法等の手法を用いれば、更に反応速度も向上します。触媒品質に求められるのは、硫酸の純度のみですから、更に、硫酸は、最も使用量の多い汎用化学原料で、世界中で何処でも入手可能です。。。。加えて、小規模バッチ法でも使用実績は多々あります。
 
中リスクな手法は、イオン交換樹脂法だと思います。でも、イオン交換樹脂の選択がキーとなります。特定のレジン製造販売業者の製品を購入する必要があり、輸入品となると思います。国産では、まだ製造も、実用実績も無いと考えています。
小規模でも可能ですが、バッチ法ではなく、少なくともエステル反応部は連続法が好ましいと思います。
 
酵素法や固体触媒法は、まだまだ未成熟技術で、特に高濃度FFA濃度での適用では、ハイ・リターン部も有るかも知れませんが、ハイ・リスク手法です。自社(個人的)研究開発品で無い限り、現状では使わない方が良いと思います。
 
以上、今回は、今後益々需要が増すエステル交換反応の前処理法(エステル化反応)を紹介しました。
 
では、また。。。。
 
Joe.H
 
 
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