バイオディーゼル(BDF)の組成と物性の最適化について!!
と言うテーマです。
下記の記述内容の一部は、昨日付(3月9日)のBiodiesel Magazineの4月号の記事(米農務省研究所のG.Knotheの投稿)を参考にしています。
これらの課題は、好ましくない窒素酸化物(NOx)の発生量に加えて、冬季時の流動特性(Cold Flow)と酸化安定性(Oxidative Stability)であろうと思います。
エンジンの燃焼時に出来るだけ炭素粒子を減らす様に不完全燃焼ではなく、完全燃焼を目指せば、炭素粒子の生成は減るものの、高温となり、逆に窒素酸化物NOxは増加すると言うジレンマがあり、エンジン本体の改良(EGR,燃料噴射法)だけでは、両者の同時解決は不可能です。
この技術は普及も進みつつあり、NOxは無害な窒素ガスと水分に還元され無害化できる。我々も使用している三菱ふそう製のバスは、SCRを使用しているし、ベンツのディーゼル車もBlueTECとして採用している。
そこで、今回はBDFの冬季特性と酸化安定性の課題を、他の規格項目のセタン価(CN)や動粘度と言った規格項目とを併せて考慮し考えて見たいと思います。
この2種類の化学物質(群)をいろいろ調整・選択することにより、前述BDFの課題は改善出来る(他方法はない)。
一般に、BDFの流動特性と酸価安定性の改善・解決法には、5種類の手法が考えられる。
1)添加剤(Additives)の利用法:多分、最も多く一般的に利用されて方法である。
但し、課題は、ASTMなどのBDF規格を満たそうとすると何種類かの添加剤を添加する必要がある。殆どの添加剤は、単一項目の改善の為に作られているからである。
流動点降下剤は、流動点(PP)の改善には効果があるが、曇り点(CP)やフィルター目詰り点(CFPP)では、効果が無いか、有っても限定的と言われている。名前から流動点(PP)降下剤であり、重要な曇り点や目詰まり点(CFPP)降下剤では、ない例が多い。
更に、添加剤間の相互作用や効果の有無などがある。例えば、酸価安定剤では、多くの製品が市場にあるが、これらと流動点降下剤との適合・不適合性などは、充分検討されていない。また、酸価安定剤は、BDFの酸化を防止目的ではなく、酸化の開始時間を遅らせるだけである。従って、時期が過ぎれば、急速に酸化は進んでしまう。
2)他アルコールの利用法:通常はメタノールが、主に価格面と反応性から使われているが、他のアルコール(エタノール、IPA,ブタノールなど)に変更すれば、低温流動特性は確かに改善できるが、酸化安定性、セタン価などは殆ど変わらないと言われている。一方、問題は動粘度が多少上昇する。
冬季時固まり安いステアリン酸メチールの融点はプラス(+)37.7℃であるものが、エタノール・エステルでは+33℃、IPAエステルでは+28℃へと確かに融点は少し低下するので、混合物の曇り点も低下する。
例えば、最近注目の酵素エステル法では、メタノールは使えなく、エタノールを使わないと反応が継続的に維持できないと言う報告もある。エタノールと酵素の価格、それに酵素の再利用性を考え併せると、一般的普及は、更なる技術進歩が必要であろう。
蒸留法は、石油や石油化学分野の他、古くから蒸留酒(ウイスキー、ブランデー)の製法としても採用されている。一般には、2成分系を加熱し気化させ、低温気化物質を塔頂から取り出し、再液化(コンデンサー)する。また、もう一方の高温物質は塔低から抜き出すことにより分離する方法である。一方が不純物の場合もある。
沸点差が大きい程、また塔頂成分量が少ないほど蒸留法による使用エネルギーが少なくなり、効果を発揮する手法と言える。
祖BDFのメタノール回収は、上記の条件を満たし蒸留と言うか、簡単なフラッシュ蒸留で回収できる。一方、BDFから、飽和化合物を除去する為の蒸留法は、前述の条件に合致していない為に、可能ではあるが、使用エネルギーの観点から、一部での利用や小規模での利用例が多い。最大熱回収に努めても、エネルギー使用量の多さから比較的大規模な(米国などの)製造所は、別の技術へ転換している所も少なくない。沸点差の少なさを改善する為に、第3成分の溶剤を添加する抽出蒸留法もあるが、溶剤の回収コストも考え合わせる必用があろう。更には、膜分離技術、特殊吸着剤の利用例もある。最近は、冬季固化の誘導物質の犯人である(飽和)モノグリセリド(MG)、SGsを吸着分離する手法も、米国での新規格(Cold-Flow)の規格化に伴い製品化されている。
4)原料油を変更する方法:廃油を使った日本のBDF製造では、原料油変更と言っても不可能に近い。出来るだけ米油系の廃油は使わず、大豆系、出来れば菜種系廃油を選択する程度が現実的な選択肢であろう。
例えば、同じ飽和脂肪酸でも、炭素数10個のカプリン酸(C10:0)や、炭素数16個の不飽和脂肪酸のパルミトレイン酸(C16:1)から製造するBDFは、規格値から好ましい原料脂肪酸と言える。メタノールエステル化されたC10:0の融点(単一成分は曇り点と言わない)はマイナス(-)13℃、セタン価は51~52、酸化安定性は24時間、動粘度は1.72mm2/sと総て規格値(報告値)をクリアーしている。仮に、この不飽和エステル(C10:1)なら、融点ー37.4℃まで低下するが、セタン価も低下して42となり、規格値の下限を割る結果になる。
ではカプリン酸(C10:0)の豊富な天然油脂は実在するのだろうか?
例えば、クフェア(Cuphea)油は、65%もカプリン酸が含まれていて、理想のBDF原料油として、最近注目されている非耐寒性常緑小低木と言われる。
興味のある方、参照ください。但し、異なる種の様で、花の色や形もいろいろある様です。
カプリン酸は、パーム核油などに少量含まれているのみで、殆どの天然油脂には存在しないか、有っても微量の様です
このクフェア油のメチールエステルの物性は素晴らしく、セタン価=55~56、動粘度は2.4mm2/sと軽油並み、規格値ではなく報告値である曇り点(CP)=-9~10℃、流動点=-22~23℃が報告値です。
但し、酸化安定性だけは、僅かに規格値の下限を超えています。従って、酸化防止剤が必要です。
Properties of Cuphea Methyl Esters with Comparison to Standardsa
property
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cuphea methyl esters
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ASTM D6751
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EN 14214
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cetane number
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56.07, 55.06
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47 min
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51 min
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kinematic viscosity (40 °C; mm2/s)
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2.38, 2.40
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1.9−6.0
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3.5−5.0
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cloud point (°C)
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−9.1, −10.1
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report
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pour point (°C)
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−21.5, −22.5
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oxidative stability (h)
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3 min
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6 min
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これらの成分が主体の天然油が、日本でも安価に手に入れば、BDFも安泰かも知れませんが、多分有り得ないと思います。
従って、現状は各種油脂をブレンドしつつ、各種添加剤添加で凌いでいる状況です。
既に、一部の欧米の大規模プラントでは、実用化されつつあります。
BDF=FAMEと言う定義であれば、この分野はもはや狭義のBDFではなく、バイオ原料使用のディーゼル燃料と言うことで、製品はバイオ燃料(Bio-Fuel)と言っても、石油の軽油と何ら代わらない分子構造をした燃料です。石油精製や石油化学の技術(熱分解、触媒分解、水素化、異性化)などを使う方法です。
この技術を大手石油会社などが研究・実用化を推進している理由は、
第1に、今回のテーマであるBDFの3つの課題の解決は難しいと言う点、加えて、
第2に、植物油脂の価格や量的確保の限界が既に見えてくる。
でも、まだ製造原価は、石油燃料の比ではない様です。
技術的には、高温・高圧反応や複雑な装置の組み合わせとなり、この分野では残念ながら、個人や小規模製造者の入る余地は無いことは確実です。
我々レベルでは、せめてBDFの高品質化を目指して小規模でも生きながらえる技術の向上が、今後は益々不可欠だと思います。
では、また。。。。。
Joe.H
追伸)
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